男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
 イライラがマックスに達しかけたその時、コーヒーテーブルの上に置かれた色とりどりのフルーツを見て、ふと思い出した。

 アロマを本格的に勉強し始めた頃、短期スクールにも通ったんだけど、その時の講師が言ってたっけ。
 性格の悪い人にはオレンジとペパーミントの精油をブレンドした香水を振りかけたらいいって。
 そうしたら性格が良くなるみたいな事を言ってた気がするけど……キールには香水じゃなくて原液を頭からぶっかけてやろうか? むしろ毎日原液のお風呂に浸からせたとしても、あの男のあの性格は良くならない気がするけど。

 ソファーから立ち上がり――チリンチリン、と机の上に置いてあるベルを鳴らせば、部屋の外で待機していた侍女が現れた。

「リーチェお嬢様、お呼びでしょうか」
「紅茶の用意をお願い。それとは別に、ボールに入れた熱いお湯を持ってきてくれる?」
「かしこまりました」

 丁寧に頭を下げて部屋を後にした侍女を見送り、机の引き出しを開ける。
 さらにその中には木製の箱。それを取り出し、机の上に置いた。
 その箱を開けた瞬間に広がる花や木、果実といった自然の香りが辺りを充満させる。
 その香りを嗅いだだけでホッとして、苛立っていた気持ちが少しだけ静まったのを感じた。

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