男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
 まぁ、気持ちは分かるけどね。自分の事より主人である私の命令を優先させた結果なんだろうから。
 それにお湯をひっくり返すなんて自分の不注意だし、もしかしたらそんな事を悟られたこと自体恥ずべきものだと考えているのかもしれないし。

 私も前世で、まだかけ出しの漫画家だった頃、居酒屋でバイトしてた時にこういうミスはやったから分かる。
 キッチンで揚げ物を揚げてる時とか、油跳ねしても料理を提供する事を優先させてたっけ。

「それではお言葉に甘えて、私はこれで失礼いたします」

 しずしずと頭を下げる侍女に、私は手招きをする。

「あっ、ちょっと待って。これを持っていきなさい」

 アロマオイルの入った木箱の中から、一つの精油瓶を取り出した。
 同じ色の遮光瓶に入った精油は中身が何か分からなくなるため、蓋にラベルを張り一目でどの製油なのかが分かるようにしていた。
 この精油は――。

「ラベンダー……ですか?」

 精油瓶を受け取った侍女は、ラベルに書かれた文字を読んで、首を傾げた。

「そうよ。キチンと冷やした後にこれをヤケドの箇所につけなさい。そうすれば痕にはならないはずだから」

 元々アロマセラピーという言葉は、フランス語の香り(アロマ)|療法(セラピー)の言葉の組み合わせからくる造語だ。
 フランスの化学者、ルネ=モーリス・ガットフォセによって作られた言葉で、彼が研究室でひどいヤケドを負った際、そのヤケドにラベンダーの精油をつけて、見事綺麗に治ったというのはとても有名な話だった。

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