男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
 ……我ながら、何てストーリーなんだ。
 まぁ、まさか自分がその、リーチェ・ロセ・トリニダードになるなんて、思わないじゃない?
 ひとまず私は、大した役割も与えられてないモブ令嬢。
 自殺するという話だけど、そこはモブキャラ、さらっとそういう話が夜会の場で話が流れる程度だ。

 自殺なんてするつもりもないし、前の唯奈の体に戻れるならそうしたいけど、たぶん私は――死んだんだと思う。
 階段から落ちた時の痛みや衝撃、それらはしっかりと覚えてる。むしろあの状態で生きてる方が奇跡だと思えるくらいだ。

 自分が死んだというのに、どこか淡々としてその事実を受け入れられるのにはきっと、他に驚くべきことのインパクトが強すぎるせいだと思う。
 まさか自分が異世界に、それも自分が描いた世界に転生するなんて思わなかったし。
 そっちを受け入れる事の方が、自分が死んだという事実よりも受け入れがたかったくらいだ。

 兎にも角にも、幸か不幸か私はこの『青愛』の世界に転生した。
 自分が手塩にかけて作り上げたキャラクター。自分が丹精込めて紡いだストーリー。
 モブキャラとはいえ、どのキャラにも愛着を湧くようにキャラづくりをしてきたつもりだ。

 鏡の前に立つと、この赤い柔らかな髪に、はちみつのような美しい瞳を見るだけで、テンションは上がる!
 この世界で、私は絶対幸せになってやる!
 せっかく得た新しい人生でまで死ぬなんてこりごりだわ!
 しかもその死因が自殺なんて……絶対するもんか!

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