男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
 レオンに借りたスカーフを鼻にグイグイと押し付け、出血が微量になってきたのを確認してから、気をとり直して紅茶を啜る。
 この部屋に通された時、侍女が準備してくれた紅茶だ。中身はすっかりぬるくなっていた。

「リーチェ」
「なんでしょうか」
「そのカップは、俺のものだと思うのだが?」

 ――ブーーーッ!!!

 そうでした! 席を交代したんだから、使用していたティーカップだって逆なはずなのに。
 いろんな事に気をとらせすぎて、すっかり忘れてしまってた。
 ってかこれ、間接キスじゃ……⁉
 いやいや問題はそこじゃない。むしろいらない事を考えるな、私。さもないと……。

 ――ポタリと赤い色が、はちみつ色をした紅茶の中に落ちた。

 あっ、やばい。ほとんど止まっていた鼻血が再び、噴き出した。

「いえ、来なくて結構です。自分で対処もできます。むしろ私に気を使ってくださるのであれば、見て見ぬふりをしてくださいませんかっ?」

 視界の端でレオンが軽く腰を上げたのを確認して、私はすぐさまそう言った。さっきみたいに抱きしめに来る可能性を考慮しての言葉だった。
 また彼に抱きしめられでもしたら、今度こそ私は出血多量で死んでしまうだろう。

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