立花夫婦はお別れしたい!
第三話
監視という名の放課後デート
○学校・校舎裏(放課後)
人気のない場所に移動する二人。
彩音「は、話ってなに……?」
冷静を装いつつ内心ドキドキの彩音。
樹「実は……楓が不良とつるんでいるって聞いて」
彩音「え? か、楓?」
拍子抜けする彩音。
樹は深刻そう。
樹「悪い奴らと友達だとか、殴り合いのケンカをしてるとか、そんな噂を聞いたんだ」
樹「彩音ちゃんはなにか知ってる?」
彩音「さ、さあ」
樹「たしかに不真面目なところはあるかもしれないけど、楓はそんな子じゃない。彩音ちゃんならわかるよね?」
数々のパシラれエピソードを思い返す彩音。
彩音(そうかな……?)
彩音「だ、だよね」
一応引きつり笑いで同意しておく。
樹はやっと笑顔になる。
樹「良かった。だからお願いがあるんだ。彩音ちゃん、楓のことを少し注意して見てくれないか?」
彩音「注意って?」
樹「どんな友達がいるのかとか……もしかしたら悪い奴に騙されているせいでそんな噂を立てられたのかもしれない」
彩音(そうは思えないけど……)
彩音(樹くんの中の楓のイメージって一体……)
樹「だめかな? 僕じゃ警戒されそうで、彩音ちゃんにしか頼めなくて」
彩音「わ、わかった。様子を探ってみるね」
樹「ありがとう!」
キラキラの王子様スマイルが眩しい。
○学校・教室(放課後)
彩音(って言ってもなあ……楓の友達どころか、普段なにしてるのかなんて知らないよ)
気が重くてため息。
片隅で男子たちが噂している。
モブ男子1「なあ、聞いた? 立花と佐野虎太郎がケンカしたって話」
モブ男子2「虎太郎って北校の猛獣とか呼ばれてる?」
モブ男子1「そう、そのヤンキー。繁華街で二人が一緒にいるところを見たやつがいるんだよ」
モブ男子2「でも佐野って身長2mのマッチョじゃなかったか? 立花がカツアゲされてたんじゃ」
モブ男子1「いや、佐野のほうが血まみれだったらしい」
ひえっとなる男子。
モブ男子2「立花って細身なのにそんなケンカ強いのかよ」
モブ男子1「他校の番長とやり合ってるなんてな」
彩音「うそ……」
聞き耳を立てていた彩音は青ざめる。
○繁華街(放課後)
原宿のような若者の集う賑やかな町へ来た彩音。
彩音(樹くんにああ言った以上、一応探らないと)
町中をきょろきょろする。
彩音「って、どこにいるわけ」
手に持ったスマホの画面には「今どこ?」「花宿(この繁華街)だけど」という楓とのやりとりが。
そのときチャラそうな男二人組が彩音に声をかける。
チャラ男1「ねえきみ、陽峰学園の子? かわいいね」
チャラ男2「暇なら俺らと遊ばない?」
彩音「結構です」
塩対応の彩音。
チャラ男1「それより私と同じ学校の男の子を見ませんでしたか?」
チャラ男2「え? あー、それならあっちで見たかも。な?」
チャラ男1「うん。案内してあげるよ」
彩音「本当ですか?」
顔を輝かせた彩音の肩に男が手を置く。
チャラ男1「そうそう、あっち。すぐ着くからさ」
移動しようとすると後ろからパシャとカメラの音が。
全員はっとして振り返る。瞬間、後ろからぐいっと身体を引き寄せられる。
そこに立っていたのは楓だった。スマホの画面を男たちに見せている。
楓「あーこれ、お兄さんたちの顔バッチリ写ったわ。俺、うまくない?」
彩音「楓!」
男たちは苛立っている。
チャラ男1「なに撮ってんだ。消せ!」
楓「あっちってホテル街じゃね? 俺そんないかがわしーところにいた記憶ないんだけど」
彩音「ホテル……?」
楓「この子が学生ってわかってたよね。あ、そんなに慌てるってことは、お兄さんたち意外と堅い職業――」
チャラ男1「い、いこうぜ」
チャラ男2「ああ」
逃げるように男たちは去って行く。
きょとんとしている彩音。
楓「なんでこんなところにいるんだよ」
楓はむっとしている。
彩音「だって楓がここだっていうから」
楓「まさか来ると思わないだろ。ナンパなんかされやがって」
彩音「ナンパ?」
楓「気づいてないのかよ……」
頭を抱える楓。
楓「もう帰れ。危なっかしいわお前」
ふいっとどこかに去ろうとする楓。
彩音はついていく。
楓「おい……」
彩音「だって樹くんと約束したから! 楓が危ないことしないように見張ってって」
楓「はあ……余計なことを」
しばらくイライラしていた楓。なにか思いついたような顔。
楓「あっそ。じゃあ好きなだけついてくれば」
楓は歩き出す。
彩音(偉そうに!)
彩音はむっとしながらついていく。
追跡に慣れてくると町をきょろきょろ。
彩音(……放課後こういうところくるのはじめてだな)
制服を着崩したり、食べ歩きしている人たちを密かに珍しく眺める。
楓「……」
そんな彩音をこっそりと見つめている楓。
彩音の足は止まっているが、楓も実は止まってあげている。
楓「……あー、ここ入ろっかな」
はっと我に返る彩音。
彩音「ちょっと、勝手なことしないで――ここって?」
いかにも女子が好きそうなかわいいカフェにすたすた入って行く楓。
彩音「あっ、待って!」
慌ててあとに続く彩音。
○カフェ(放課後)
店員「いらっしゃいませ、二名様ですね! こちらにどうぞ!」
ゆめかわな衣装を着た店員さんが案内してくれる。二人が並んで座るカップルシートだが、彩音はそのことに気づいてない。
店内を見まわして
彩音(うわぁぁ~!)
飾り付けられた席について
彩音(ふあぁぁ~!)
メニューを開いて
彩音(なにもかもがかわいい!)
ずっと目を輝かせている。
店員「ご注文はお決まりですか?」
楓「じゃあアイスコーヒーと紅茶と、これで」
楓がメニューを指さす。
店員「恋するくまさんのゆめふわキラキラパンケーキですね! お待ちくださ~い」
店員が去る。
彩音(楓、こういうの好きなの!?)
黙っていた楓がくつくつ笑い出す。
彩音「な、なに」
楓「さっきのお前、物珍しそうにきょろきょろして」
彩音「だってしかたないでしょ! あんまり来たことなかったから……」
なにかを思い出しているように遠い目をする彩音。
彩音(本当は、こういうの興味があった。友達と放課後遊んで、おしゃれしたりかわいいスイーツ食べたり)
彩音(でもそんなの……お父さんたちに言えるはずないよ)
彩音「べ、勉強で忙しいの私は。在学中に行政書士試験に受かるんだから!」
自分に言い聞かせるような彩音。
彩音を少し切なそうに見つめている楓。
そこへ店員が。
店員「お待たせしました! こちらキラキラパンケーキカップルバージョンです!」
メニューよりさらにハートに飾り付けられたパンケーキが。
彩音「か、カップル!?」
店員「カップルシートのお客様への特別サービスです!」
彩音「わ、私たちカップルなんかじゃ」
慌てる彩音の手を楓がいきなり店員に見せつけるように恋人繋ぎする。
楓「カップルじゃなくて、夫婦なんです俺たち。それでもいいですか?」
店員「! も、もちろんですぅ!」
店員さんはきゃーっとテンションが上がっている。
唖然としていると店員が去る。
慌てて手を振りほどく彩音。
彩音「な、なんであんなこと」
楓「本当のことだから」
彩音「それは学校でのあだ名でしょ……」
楓「食べなくていいのか? 溶けるぞ」
彩音「あ、ま、待って」
スマホのカメラを構える彩音。
彩音「楓も入って」
パンケーキと楓を写真に収める。
楓「……俺の写真撮ったの?」
彩音「そう。これ見せれば、樹くんも安心するでしょ?」
だるそうな楓とゆめかわなパンケーキがアンマッチで面白い写真になっている。
彩音「あはっ、これなら楓も少しはかわいく見えるね」
おかしそうに笑う彩音を、楓は優しい微笑みで見つめている。
彩音「うわっ、おいしい~!」
パンケーキに夢中になる彩音はそのことに気づいていない。
○繁華街(放課後)
食べ終わり店を出る。
彩音(もう帰るのかな?)
しかし楓はまたスタスタ歩き出す。
楓「ここ入ろっと」
わざと聞こえるように言って、雑貨屋に入っていく。
彩音も続く。
○雑貨屋(放課後)
彩音(ふ、ふぁぁぁ~~!)
再び目を輝かせる彩音。
雑貨屋にはアクセサリーとかお洒落な文房具がずらり。
楓「えーっと、なに買うんだったかな」
楓は店をぶらぶら。
周りに気を取られまくっている彩音。
思わずアクセサリーに手を伸ばす。細いヘアピン。シンプルながらお洒落。
彩音「かわいい……」
楓「あ、これだこれ」
楓が横からにゅっと覗き込む。
彩音「え?」
驚いているうちに手からさっと楓がヘアピンを取り、レジに持っていく。
彩音(なにに使うの?)
ぽかんとしていると楓が出て行く。
彩音「あっ、待ってってば!」
その後もゲームセンターとか、流行の食べ歩きスイーツのワゴンとかに連れ回される。
彩音はなんだかんだ楽しんでしまう。
○路地裏(放課後)
彩音(もう、またどこかにいくつもり?)
再び彼のあとをつけていくと、楓がさっと路地に入る。
彩音「あっ、待ちなさい!」
表通りと違ってそこには人気がない。
楓は立ち止まって待っていた。
楓「いい加減、隣歩けば」
彩音「だ、だって、一応あとつけてるつもりだし」
楓「いつまで気にしてるんだよ」
呆れたように笑われておずおず隣に並ぶ。
彩音(そういえば、楓は今日行った場所、どうして行きたかったんだろう)
彩音(なんか、私のほうが楽しんでた気がする)
楓「じっとしてて」
突然楓が耳元に触れる。
彩音「えっ、なに……」
楓「おー、似合うじゃん」
彩音(これ、さっきの?)
触れたところにはヘアピンの感触。
彩音「どうして……」
楓「……かわいいと思ったから」
悪戯っぽく微笑まれて、思わずドキッとしてしまう。
楓(へ、ヘアピンが、だよね……?)
路地のところに誰かが立ち、二人に影を落とす。
虎太郎「そこにいるの……お前、楓か?」
楓「虎太郎?」
彩音(えっ、虎太郎って、北高の猛獣!?)
路地の入り口には金髪ロン毛の怖そうな学ランの男が立っている。
彩音〈噂って本当だったの!?〉
対峙する二人を見つめて青ざめる彩音。
人気のない場所に移動する二人。
彩音「は、話ってなに……?」
冷静を装いつつ内心ドキドキの彩音。
樹「実は……楓が不良とつるんでいるって聞いて」
彩音「え? か、楓?」
拍子抜けする彩音。
樹は深刻そう。
樹「悪い奴らと友達だとか、殴り合いのケンカをしてるとか、そんな噂を聞いたんだ」
樹「彩音ちゃんはなにか知ってる?」
彩音「さ、さあ」
樹「たしかに不真面目なところはあるかもしれないけど、楓はそんな子じゃない。彩音ちゃんならわかるよね?」
数々のパシラれエピソードを思い返す彩音。
彩音(そうかな……?)
彩音「だ、だよね」
一応引きつり笑いで同意しておく。
樹はやっと笑顔になる。
樹「良かった。だからお願いがあるんだ。彩音ちゃん、楓のことを少し注意して見てくれないか?」
彩音「注意って?」
樹「どんな友達がいるのかとか……もしかしたら悪い奴に騙されているせいでそんな噂を立てられたのかもしれない」
彩音(そうは思えないけど……)
彩音(樹くんの中の楓のイメージって一体……)
樹「だめかな? 僕じゃ警戒されそうで、彩音ちゃんにしか頼めなくて」
彩音「わ、わかった。様子を探ってみるね」
樹「ありがとう!」
キラキラの王子様スマイルが眩しい。
○学校・教室(放課後)
彩音(って言ってもなあ……楓の友達どころか、普段なにしてるのかなんて知らないよ)
気が重くてため息。
片隅で男子たちが噂している。
モブ男子1「なあ、聞いた? 立花と佐野虎太郎がケンカしたって話」
モブ男子2「虎太郎って北校の猛獣とか呼ばれてる?」
モブ男子1「そう、そのヤンキー。繁華街で二人が一緒にいるところを見たやつがいるんだよ」
モブ男子2「でも佐野って身長2mのマッチョじゃなかったか? 立花がカツアゲされてたんじゃ」
モブ男子1「いや、佐野のほうが血まみれだったらしい」
ひえっとなる男子。
モブ男子2「立花って細身なのにそんなケンカ強いのかよ」
モブ男子1「他校の番長とやり合ってるなんてな」
彩音「うそ……」
聞き耳を立てていた彩音は青ざめる。
○繁華街(放課後)
原宿のような若者の集う賑やかな町へ来た彩音。
彩音(樹くんにああ言った以上、一応探らないと)
町中をきょろきょろする。
彩音「って、どこにいるわけ」
手に持ったスマホの画面には「今どこ?」「花宿(この繁華街)だけど」という楓とのやりとりが。
そのときチャラそうな男二人組が彩音に声をかける。
チャラ男1「ねえきみ、陽峰学園の子? かわいいね」
チャラ男2「暇なら俺らと遊ばない?」
彩音「結構です」
塩対応の彩音。
チャラ男1「それより私と同じ学校の男の子を見ませんでしたか?」
チャラ男2「え? あー、それならあっちで見たかも。な?」
チャラ男1「うん。案内してあげるよ」
彩音「本当ですか?」
顔を輝かせた彩音の肩に男が手を置く。
チャラ男1「そうそう、あっち。すぐ着くからさ」
移動しようとすると後ろからパシャとカメラの音が。
全員はっとして振り返る。瞬間、後ろからぐいっと身体を引き寄せられる。
そこに立っていたのは楓だった。スマホの画面を男たちに見せている。
楓「あーこれ、お兄さんたちの顔バッチリ写ったわ。俺、うまくない?」
彩音「楓!」
男たちは苛立っている。
チャラ男1「なに撮ってんだ。消せ!」
楓「あっちってホテル街じゃね? 俺そんないかがわしーところにいた記憶ないんだけど」
彩音「ホテル……?」
楓「この子が学生ってわかってたよね。あ、そんなに慌てるってことは、お兄さんたち意外と堅い職業――」
チャラ男1「い、いこうぜ」
チャラ男2「ああ」
逃げるように男たちは去って行く。
きょとんとしている彩音。
楓「なんでこんなところにいるんだよ」
楓はむっとしている。
彩音「だって楓がここだっていうから」
楓「まさか来ると思わないだろ。ナンパなんかされやがって」
彩音「ナンパ?」
楓「気づいてないのかよ……」
頭を抱える楓。
楓「もう帰れ。危なっかしいわお前」
ふいっとどこかに去ろうとする楓。
彩音はついていく。
楓「おい……」
彩音「だって樹くんと約束したから! 楓が危ないことしないように見張ってって」
楓「はあ……余計なことを」
しばらくイライラしていた楓。なにか思いついたような顔。
楓「あっそ。じゃあ好きなだけついてくれば」
楓は歩き出す。
彩音(偉そうに!)
彩音はむっとしながらついていく。
追跡に慣れてくると町をきょろきょろ。
彩音(……放課後こういうところくるのはじめてだな)
制服を着崩したり、食べ歩きしている人たちを密かに珍しく眺める。
楓「……」
そんな彩音をこっそりと見つめている楓。
彩音の足は止まっているが、楓も実は止まってあげている。
楓「……あー、ここ入ろっかな」
はっと我に返る彩音。
彩音「ちょっと、勝手なことしないで――ここって?」
いかにも女子が好きそうなかわいいカフェにすたすた入って行く楓。
彩音「あっ、待って!」
慌ててあとに続く彩音。
○カフェ(放課後)
店員「いらっしゃいませ、二名様ですね! こちらにどうぞ!」
ゆめかわな衣装を着た店員さんが案内してくれる。二人が並んで座るカップルシートだが、彩音はそのことに気づいてない。
店内を見まわして
彩音(うわぁぁ~!)
飾り付けられた席について
彩音(ふあぁぁ~!)
メニューを開いて
彩音(なにもかもがかわいい!)
ずっと目を輝かせている。
店員「ご注文はお決まりですか?」
楓「じゃあアイスコーヒーと紅茶と、これで」
楓がメニューを指さす。
店員「恋するくまさんのゆめふわキラキラパンケーキですね! お待ちくださ~い」
店員が去る。
彩音(楓、こういうの好きなの!?)
黙っていた楓がくつくつ笑い出す。
彩音「な、なに」
楓「さっきのお前、物珍しそうにきょろきょろして」
彩音「だってしかたないでしょ! あんまり来たことなかったから……」
なにかを思い出しているように遠い目をする彩音。
彩音(本当は、こういうの興味があった。友達と放課後遊んで、おしゃれしたりかわいいスイーツ食べたり)
彩音(でもそんなの……お父さんたちに言えるはずないよ)
彩音「べ、勉強で忙しいの私は。在学中に行政書士試験に受かるんだから!」
自分に言い聞かせるような彩音。
彩音を少し切なそうに見つめている楓。
そこへ店員が。
店員「お待たせしました! こちらキラキラパンケーキカップルバージョンです!」
メニューよりさらにハートに飾り付けられたパンケーキが。
彩音「か、カップル!?」
店員「カップルシートのお客様への特別サービスです!」
彩音「わ、私たちカップルなんかじゃ」
慌てる彩音の手を楓がいきなり店員に見せつけるように恋人繋ぎする。
楓「カップルじゃなくて、夫婦なんです俺たち。それでもいいですか?」
店員「! も、もちろんですぅ!」
店員さんはきゃーっとテンションが上がっている。
唖然としていると店員が去る。
慌てて手を振りほどく彩音。
彩音「な、なんであんなこと」
楓「本当のことだから」
彩音「それは学校でのあだ名でしょ……」
楓「食べなくていいのか? 溶けるぞ」
彩音「あ、ま、待って」
スマホのカメラを構える彩音。
彩音「楓も入って」
パンケーキと楓を写真に収める。
楓「……俺の写真撮ったの?」
彩音「そう。これ見せれば、樹くんも安心するでしょ?」
だるそうな楓とゆめかわなパンケーキがアンマッチで面白い写真になっている。
彩音「あはっ、これなら楓も少しはかわいく見えるね」
おかしそうに笑う彩音を、楓は優しい微笑みで見つめている。
彩音「うわっ、おいしい~!」
パンケーキに夢中になる彩音はそのことに気づいていない。
○繁華街(放課後)
食べ終わり店を出る。
彩音(もう帰るのかな?)
しかし楓はまたスタスタ歩き出す。
楓「ここ入ろっと」
わざと聞こえるように言って、雑貨屋に入っていく。
彩音も続く。
○雑貨屋(放課後)
彩音(ふ、ふぁぁぁ~~!)
再び目を輝かせる彩音。
雑貨屋にはアクセサリーとかお洒落な文房具がずらり。
楓「えーっと、なに買うんだったかな」
楓は店をぶらぶら。
周りに気を取られまくっている彩音。
思わずアクセサリーに手を伸ばす。細いヘアピン。シンプルながらお洒落。
彩音「かわいい……」
楓「あ、これだこれ」
楓が横からにゅっと覗き込む。
彩音「え?」
驚いているうちに手からさっと楓がヘアピンを取り、レジに持っていく。
彩音(なにに使うの?)
ぽかんとしていると楓が出て行く。
彩音「あっ、待ってってば!」
その後もゲームセンターとか、流行の食べ歩きスイーツのワゴンとかに連れ回される。
彩音はなんだかんだ楽しんでしまう。
○路地裏(放課後)
彩音(もう、またどこかにいくつもり?)
再び彼のあとをつけていくと、楓がさっと路地に入る。
彩音「あっ、待ちなさい!」
表通りと違ってそこには人気がない。
楓は立ち止まって待っていた。
楓「いい加減、隣歩けば」
彩音「だ、だって、一応あとつけてるつもりだし」
楓「いつまで気にしてるんだよ」
呆れたように笑われておずおず隣に並ぶ。
彩音(そういえば、楓は今日行った場所、どうして行きたかったんだろう)
彩音(なんか、私のほうが楽しんでた気がする)
楓「じっとしてて」
突然楓が耳元に触れる。
彩音「えっ、なに……」
楓「おー、似合うじゃん」
彩音(これ、さっきの?)
触れたところにはヘアピンの感触。
彩音「どうして……」
楓「……かわいいと思ったから」
悪戯っぽく微笑まれて、思わずドキッとしてしまう。
楓(へ、ヘアピンが、だよね……?)
路地のところに誰かが立ち、二人に影を落とす。
虎太郎「そこにいるの……お前、楓か?」
楓「虎太郎?」
彩音(えっ、虎太郎って、北高の猛獣!?)
路地の入り口には金髪ロン毛の怖そうな学ランの男が立っている。
彩音〈噂って本当だったの!?〉
対峙する二人を見つめて青ざめる彩音。