立花夫婦はお別れしたい!
第五話
きみにしか言えないこと
○(回想)楓12歳、立花家の応接室
楓〈初恋は12歳のとき〉
彩音「はじめまして、神崎彩音です」
親たちが挨拶しているなか、にっこり微笑む彩音にみとれる楓。
樹「こんにちは彩音ちゃん。僕は樹、こっちは弟の楓」
樹「彩音ちゃんは楓と同い年なんだってね。仲良くしてやってね」
楓〈はじめて失恋したのもそのとき〉
彩音「は、はい」
彩音は王子様スマイルの樹を見てぽーっとなっている。
それを密かに焦りの表情で見つめる楓。
楓〈そのときの俺はまだどうしようもないガキで〉
楓〈欲しい物と手に入れようと必死だった〉
○(回想)楓12歳、立花家食卓
楓父「婚約って、まだ早いですよお父さん」
夕食の席でみんなが食卓を囲む。楓の祖父である、立花フーズの会長に突っ込む楓父。
楓祖父「でも孫同士が結婚するのがわしらの夢じゃったんじゃ」
楓父「そういうのは当人同士の気持ちの問題ですから」
楓「俺、いいよ。婚約しても」
楓祖父「本当か!?」
楓〈彩音の気持ちも考えず、チャンスに飛びついた〉
楓父「相手のお嬢さんも了承すれば、ですよ」
楓祖父「わかっておる。いやあこりゃめでたい」
すでに婚約したかのように喜ぶ祖父。
○(回想)楓12歳、自室
婚約の話から数日後、部屋でスポーツ観戦していると祖父が入ってくる。
楓祖父「楓、彩音ちゃんが婚約を受け入れてくれたぞ!」
楓「え……本当?」
楓祖父「まったくじじい想いの孫たちじゃ!」
楓「やめろって」
なで回されて迷惑そうだが、喜びを隠せない笑顔の楓。
楓〈自分にも脈があるんじゃなんて思った〉
楓〈そのときはまだ、彩音の事情を知らなくて〉
楓〈家族に遠慮して、優等生を演じてるって知ってたらこんな話持ちかけなかった〉
楓〈断れないに決まってるから〉
(回想終了)
○学校・教室(午後)
彩音は先生に頼み事をされている。それをこっそり見つめる楓。
教師「じゃあこのノートあとで準備室に運んでおいてくれ」
彩音「わかりました」
楓〈でも、優しく近づけば振り向いてくれるのか?〉
楓〈違うよな〉
楓〈『王子様』じゃ兄貴にかなうはずないんだから〉
教師「悪いんだけど、放課後も資料作りを手伝ってくれないか? 神崎さんがやってくれると早いんだよ」
彩音「え……わ、わかりました」
彩音(またか……)
無遠慮な頼み事に彩音の顔が引き攣っている。でもなんとか笑顔を浮かべている。
楓はつかつかと近寄っていく。
楓「へえ、じゃ俺も一緒にやりますよ」
教師「え? い、いや、立花くんはいいよ……」
教師は楓を怖がっている。
楓「なんで? 彩音だって教材係じゃないんだから部外者でしょ。俺がやったって同じじゃね?」
教師「ご、ごめんね。放課後は一人でやるから。ノートだけ頼むね」
そそくさと去って行く教師。
楓「持つ」
楓はノートを一人で運ぼうとする。
はっとなる彩音。
彩音「わ、私が」
楓「じゃあ」
ノートを三分の一くらい渡す楓
○学校・廊下(午後)
廊下を並んで歩く二人。
彩音「ありがとう……」
楓「別に」
彩音は楓を意識してしまってうまく顔を見ることが出来ない
彩音(あれっていったいどういう……)
彩音「あ、あの……本気、なの?」
楓「……」
彩音「この間、の……」
顔を上げると真剣な表情の楓がじっと見つめている。
思わずどきっとする彩音。
楓「さあ、どうだろうな?」
いつものにやりとした笑み。
楓「好きなように取れば?」
彩音「はあ!?」
すたすた先を歩いて行く楓。
彩音(やっぱり冗談だったの? ドキドキして損した!)
楓(そんなに困った顔されて、本気とか言えるかよ)
○学校・グラウンド(午後)
体育の授業が行われている。
女子は短距離走のタイム測定。
彩音が屈伸して自分の番に備えていると女子たちの噂が聞こえてくる。
モブ女子1「体育の成績って実技の割合めっちゃ高いらしいよ」
モブ女子2「あの先生特に厳しいんだってね」
彩音はショック。
彩音(そうなんだ……)
自分の番になり、スタート。
案の定彩音はビリ。
呼吸を整えながら険しい顔をする。
教師「今のタイムに納得できない者はもう一度走っていいぞ」
先生が言っている。
彩音「お願いします」
モブ女子1「えっ、神崎さん走るの!?」
彩音「うん。足遅いから」
苦笑する彩音に驚愕の表情を向ける女子たち。
○学校・グラウンドの端(午後)
男子の体育を日陰でサボっている楓。
近くの水飲み場に女子たちがくる。
モブ女子1「神崎さんかわいそうだよね」
モブ女子2「先生何回走らせるつもりなんだろう」
モブ女子1「あれじゃ倒れちゃうよね」
女子たちの話を聞いて、はっとして走り出す楓。
○学校・グラウンド(午後)
彩音は何度目かになるかわからないタイム測定。
はあはあしながらスタートラインに立っている。
教師「お、おい、無理だったらやめてもいいんだぞ」
彩音「いえ、やらせてください」
スタートの合図が鳴り、走り始める彩音。
視界が揺れる。
彩音(悪い成績とるわけには……)
ゴールと同時に倒れかける。
まわりはざわつく。
そのとき、駆け寄ってきた楓が彩音を抱き留める。
楓「保健室連れて行きます」
みんなが唖然とする中、楓は気を失った彩音をお姫さま抱っこで運んでいく。
○学校・保健室(放課後)
ベッドに横たわる彩音が目を覚ます。
彩音「え……ここ」
楓「保健室」
隣には椅子に座る楓。
はっとする彩音。
彩音「授業は!?」
楓「もう放課後だ」
彩音「そんな……」
しゅんとなる彩音。
楓「遅いからずっと走らされてたのか?」
彩音「ううん。私が自分から走らせてもらったの。タイムが良ければ成績も上がると思って」
楓「なんでそこまでこだわるんだよ。基本的にお前めちゃくちゃ成績いいだろ」
彩音「それが普通だもん。悪い数字なんて家族に見せられない……」
苦しそうな彩音にはっとする楓。なにか言いたげだが、言葉にはしない。
彩音「わかってるよ。そんなことは気にしない、でしょ。でも……」
そのとき保健室の扉が開く。
樹「彩音ちゃん、大丈夫!?」
焦った顔の樹が入ってくる。
慌てて毛布を引っ張り上げて顔を半分隠す彩音。
楓「なんの用だよ」
樹「体育の授業で倒れたって聞いたから。具合悪い? 家の人呼ぼうか?」
彩音「や、やめて!」
樹「でも……」
楓「本人がいいって言ってるんだから無理強いするなよ」
樹「だけど家の人が心配するよ」
楓「兄貴の価値観を押しつけんなよ」
樹「楓……」
楓「彩音には彩音の考えがあるんだろ。ガキ扱いするだけなら出てけって」
まだ心配そうな樹。
楓「彩音は俺が責任もって送っていく。それでいいだろ」
樹「……わかった。彩音ちゃん、お大事にね」
彩音を気にしつつも退室する樹。
彩音「ありがとう……」
楓「別に。ただ善意の押しつけがむかついたから」
いつもと変わらぬ様子の楓をじっと見つめる彩音。
彩音〈私が家族に対して無理してるって知ってるのは楓だけ〉
彩音〈素で話せるのが楓だけってことだ〉
彩音〈本当の私は完璧でもなんでもない。楓は知ってて側にいてくれる――〉
楓「な、なんだよ」
彩音「ううん、別に」
彩音(もしも楓と別々の学校だったら、誰にも本音を話せない毎日だったんだな)
彩音(楓はそんなつもりないんだろうけど、同じ学校に入学しろって言われたの、今は少し感謝してるなんておかしいかな)
○学校・教室(午後)
ホームルームの時間。
彩音(それにしてもこのチケットどうしよう)
彩音は自席で樹に渡し損ねたチケットをこっそり眺めている。
彩音(彼女か……)
教壇には実行委員の腕章を付けた女子が司会として立っている。腕章を付けた男子は書記をしている。
実行委員女子「じゃあ今日は学校祭の出し物について話し合いたいと思います。意見ある人は出していってー」
モブ男子1「やっぱり飲食店やりたいよな。できる?」
実行委員女子「一年はクラスでの出し物になるから、火は使えないけど」
モブ女子1「じゃあカフェとかは。飲み物とスイーツなら出せそうじゃない?」
クラスが賛成ムードに
黒板にカフェと書かれる。
実行委員女子「カフェはできるけど、毎年多いみたい。普通のカフェじゃ目立たないかも」
モブ女子1「じゃあコンセプトカフェ」
モブ男子1「メイド?」
モブ女子2「執事じゃない?」
教室内は盛り上がっている。
モブ女子3「ねえ、コスプレよりもさ、占いとかってどう?」
モブ女子3「うちの学校って後夜祭の最中に告白すると結ばれるってジンクスがあるでしょ? だから学祭でカップル成立する率が高いじゃん?」
彩音(え、そんなジンクスがあるの?)
まわりはうんうん頷いている。
彩音(そっかみんな内部進学組だから知ってるんだ)
モブ女子3「それで恋占いをテーマにしたカフェにするの! みんなが魔女とか魔法使いの格好をして、お客さんは告白の成功率を占ってもらえるってわけ」
モブ男子2「占いとかできないけど?」
モブ女子3「本気の占いじゃなくてもいいんだよ。おみくじをひかせるみたいな」
モブ女子4「それならメニューにフォーチュンクッキーがあるのはどう?」
モブ女子5「恋愛運アップのお守りグッズも売るとか」
女子はきゃあきゃあ盛り上がっている。
モブ男子3「魔女コスって意外とかわいいかもな」
モブ男子4「うん、結構アリ」
男子も男子で盛り上がっている。
実行委員女子「じゃあ今年の催し物は恋占いカフェに決まりです」
黒板にでかでかと書き込まれる。
ぽかんとしている彩音。机に突っ伏した楓があくびをして起き上がる。
彩音(後夜祭で告白……)
もう一度チケットを見つめる彩音。
楓〈初恋は12歳のとき〉
彩音「はじめまして、神崎彩音です」
親たちが挨拶しているなか、にっこり微笑む彩音にみとれる楓。
樹「こんにちは彩音ちゃん。僕は樹、こっちは弟の楓」
樹「彩音ちゃんは楓と同い年なんだってね。仲良くしてやってね」
楓〈はじめて失恋したのもそのとき〉
彩音「は、はい」
彩音は王子様スマイルの樹を見てぽーっとなっている。
それを密かに焦りの表情で見つめる楓。
楓〈そのときの俺はまだどうしようもないガキで〉
楓〈欲しい物と手に入れようと必死だった〉
○(回想)楓12歳、立花家食卓
楓父「婚約って、まだ早いですよお父さん」
夕食の席でみんなが食卓を囲む。楓の祖父である、立花フーズの会長に突っ込む楓父。
楓祖父「でも孫同士が結婚するのがわしらの夢じゃったんじゃ」
楓父「そういうのは当人同士の気持ちの問題ですから」
楓「俺、いいよ。婚約しても」
楓祖父「本当か!?」
楓〈彩音の気持ちも考えず、チャンスに飛びついた〉
楓父「相手のお嬢さんも了承すれば、ですよ」
楓祖父「わかっておる。いやあこりゃめでたい」
すでに婚約したかのように喜ぶ祖父。
○(回想)楓12歳、自室
婚約の話から数日後、部屋でスポーツ観戦していると祖父が入ってくる。
楓祖父「楓、彩音ちゃんが婚約を受け入れてくれたぞ!」
楓「え……本当?」
楓祖父「まったくじじい想いの孫たちじゃ!」
楓「やめろって」
なで回されて迷惑そうだが、喜びを隠せない笑顔の楓。
楓〈自分にも脈があるんじゃなんて思った〉
楓〈そのときはまだ、彩音の事情を知らなくて〉
楓〈家族に遠慮して、優等生を演じてるって知ってたらこんな話持ちかけなかった〉
楓〈断れないに決まってるから〉
(回想終了)
○学校・教室(午後)
彩音は先生に頼み事をされている。それをこっそり見つめる楓。
教師「じゃあこのノートあとで準備室に運んでおいてくれ」
彩音「わかりました」
楓〈でも、優しく近づけば振り向いてくれるのか?〉
楓〈違うよな〉
楓〈『王子様』じゃ兄貴にかなうはずないんだから〉
教師「悪いんだけど、放課後も資料作りを手伝ってくれないか? 神崎さんがやってくれると早いんだよ」
彩音「え……わ、わかりました」
彩音(またか……)
無遠慮な頼み事に彩音の顔が引き攣っている。でもなんとか笑顔を浮かべている。
楓はつかつかと近寄っていく。
楓「へえ、じゃ俺も一緒にやりますよ」
教師「え? い、いや、立花くんはいいよ……」
教師は楓を怖がっている。
楓「なんで? 彩音だって教材係じゃないんだから部外者でしょ。俺がやったって同じじゃね?」
教師「ご、ごめんね。放課後は一人でやるから。ノートだけ頼むね」
そそくさと去って行く教師。
楓「持つ」
楓はノートを一人で運ぼうとする。
はっとなる彩音。
彩音「わ、私が」
楓「じゃあ」
ノートを三分の一くらい渡す楓
○学校・廊下(午後)
廊下を並んで歩く二人。
彩音「ありがとう……」
楓「別に」
彩音は楓を意識してしまってうまく顔を見ることが出来ない
彩音(あれっていったいどういう……)
彩音「あ、あの……本気、なの?」
楓「……」
彩音「この間、の……」
顔を上げると真剣な表情の楓がじっと見つめている。
思わずどきっとする彩音。
楓「さあ、どうだろうな?」
いつものにやりとした笑み。
楓「好きなように取れば?」
彩音「はあ!?」
すたすた先を歩いて行く楓。
彩音(やっぱり冗談だったの? ドキドキして損した!)
楓(そんなに困った顔されて、本気とか言えるかよ)
○学校・グラウンド(午後)
体育の授業が行われている。
女子は短距離走のタイム測定。
彩音が屈伸して自分の番に備えていると女子たちの噂が聞こえてくる。
モブ女子1「体育の成績って実技の割合めっちゃ高いらしいよ」
モブ女子2「あの先生特に厳しいんだってね」
彩音はショック。
彩音(そうなんだ……)
自分の番になり、スタート。
案の定彩音はビリ。
呼吸を整えながら険しい顔をする。
教師「今のタイムに納得できない者はもう一度走っていいぞ」
先生が言っている。
彩音「お願いします」
モブ女子1「えっ、神崎さん走るの!?」
彩音「うん。足遅いから」
苦笑する彩音に驚愕の表情を向ける女子たち。
○学校・グラウンドの端(午後)
男子の体育を日陰でサボっている楓。
近くの水飲み場に女子たちがくる。
モブ女子1「神崎さんかわいそうだよね」
モブ女子2「先生何回走らせるつもりなんだろう」
モブ女子1「あれじゃ倒れちゃうよね」
女子たちの話を聞いて、はっとして走り出す楓。
○学校・グラウンド(午後)
彩音は何度目かになるかわからないタイム測定。
はあはあしながらスタートラインに立っている。
教師「お、おい、無理だったらやめてもいいんだぞ」
彩音「いえ、やらせてください」
スタートの合図が鳴り、走り始める彩音。
視界が揺れる。
彩音(悪い成績とるわけには……)
ゴールと同時に倒れかける。
まわりはざわつく。
そのとき、駆け寄ってきた楓が彩音を抱き留める。
楓「保健室連れて行きます」
みんなが唖然とする中、楓は気を失った彩音をお姫さま抱っこで運んでいく。
○学校・保健室(放課後)
ベッドに横たわる彩音が目を覚ます。
彩音「え……ここ」
楓「保健室」
隣には椅子に座る楓。
はっとする彩音。
彩音「授業は!?」
楓「もう放課後だ」
彩音「そんな……」
しゅんとなる彩音。
楓「遅いからずっと走らされてたのか?」
彩音「ううん。私が自分から走らせてもらったの。タイムが良ければ成績も上がると思って」
楓「なんでそこまでこだわるんだよ。基本的にお前めちゃくちゃ成績いいだろ」
彩音「それが普通だもん。悪い数字なんて家族に見せられない……」
苦しそうな彩音にはっとする楓。なにか言いたげだが、言葉にはしない。
彩音「わかってるよ。そんなことは気にしない、でしょ。でも……」
そのとき保健室の扉が開く。
樹「彩音ちゃん、大丈夫!?」
焦った顔の樹が入ってくる。
慌てて毛布を引っ張り上げて顔を半分隠す彩音。
楓「なんの用だよ」
樹「体育の授業で倒れたって聞いたから。具合悪い? 家の人呼ぼうか?」
彩音「や、やめて!」
樹「でも……」
楓「本人がいいって言ってるんだから無理強いするなよ」
樹「だけど家の人が心配するよ」
楓「兄貴の価値観を押しつけんなよ」
樹「楓……」
楓「彩音には彩音の考えがあるんだろ。ガキ扱いするだけなら出てけって」
まだ心配そうな樹。
楓「彩音は俺が責任もって送っていく。それでいいだろ」
樹「……わかった。彩音ちゃん、お大事にね」
彩音を気にしつつも退室する樹。
彩音「ありがとう……」
楓「別に。ただ善意の押しつけがむかついたから」
いつもと変わらぬ様子の楓をじっと見つめる彩音。
彩音〈私が家族に対して無理してるって知ってるのは楓だけ〉
彩音〈素で話せるのが楓だけってことだ〉
彩音〈本当の私は完璧でもなんでもない。楓は知ってて側にいてくれる――〉
楓「な、なんだよ」
彩音「ううん、別に」
彩音(もしも楓と別々の学校だったら、誰にも本音を話せない毎日だったんだな)
彩音(楓はそんなつもりないんだろうけど、同じ学校に入学しろって言われたの、今は少し感謝してるなんておかしいかな)
○学校・教室(午後)
ホームルームの時間。
彩音(それにしてもこのチケットどうしよう)
彩音は自席で樹に渡し損ねたチケットをこっそり眺めている。
彩音(彼女か……)
教壇には実行委員の腕章を付けた女子が司会として立っている。腕章を付けた男子は書記をしている。
実行委員女子「じゃあ今日は学校祭の出し物について話し合いたいと思います。意見ある人は出していってー」
モブ男子1「やっぱり飲食店やりたいよな。できる?」
実行委員女子「一年はクラスでの出し物になるから、火は使えないけど」
モブ女子1「じゃあカフェとかは。飲み物とスイーツなら出せそうじゃない?」
クラスが賛成ムードに
黒板にカフェと書かれる。
実行委員女子「カフェはできるけど、毎年多いみたい。普通のカフェじゃ目立たないかも」
モブ女子1「じゃあコンセプトカフェ」
モブ男子1「メイド?」
モブ女子2「執事じゃない?」
教室内は盛り上がっている。
モブ女子3「ねえ、コスプレよりもさ、占いとかってどう?」
モブ女子3「うちの学校って後夜祭の最中に告白すると結ばれるってジンクスがあるでしょ? だから学祭でカップル成立する率が高いじゃん?」
彩音(え、そんなジンクスがあるの?)
まわりはうんうん頷いている。
彩音(そっかみんな内部進学組だから知ってるんだ)
モブ女子3「それで恋占いをテーマにしたカフェにするの! みんなが魔女とか魔法使いの格好をして、お客さんは告白の成功率を占ってもらえるってわけ」
モブ男子2「占いとかできないけど?」
モブ女子3「本気の占いじゃなくてもいいんだよ。おみくじをひかせるみたいな」
モブ女子4「それならメニューにフォーチュンクッキーがあるのはどう?」
モブ女子5「恋愛運アップのお守りグッズも売るとか」
女子はきゃあきゃあ盛り上がっている。
モブ男子3「魔女コスって意外とかわいいかもな」
モブ男子4「うん、結構アリ」
男子も男子で盛り上がっている。
実行委員女子「じゃあ今年の催し物は恋占いカフェに決まりです」
黒板にでかでかと書き込まれる。
ぽかんとしている彩音。机に突っ伏した楓があくびをして起き上がる。
彩音(後夜祭で告白……)
もう一度チケットを見つめる彩音。