不純異性交遊禁止。
「ええっ、つ、付き合ってもいないのに、そんなことまで……？」

小説の中では、わたしと同じ歳の主人公が、片想いの男子とロッカーに隠れて、大変なことになっている。

わたしの知っている世界では、結婚前にするのは許されないこと。

読んでいるだけで、恥ずかしい。
口を押さえながら、真っ赤な顔で、読み進める手が止まらない。

恋愛小説を読むようになってから、気づいてしまった。
わたしはとても、狭い世界で生きている。

当たり前に男子がいる、学校生活。
電車通学。
放課後の制服デート。
休日の私服を、前日から悩んで寝不足になったり。

全部、知らない世界。

一度でいい。
わたしも、こんなふうに……。

「待ちなさい！　佐伯(さえき)！」

ひとりで物語に入り込んでいた時、塀の向こう側がにぎやかになってきた。

男性の叫び声と、バタバタと逃げるような足音。

「どこだ、佐伯ー！」

叫び声は遠ざかっていくのに、足音だけはこちらに近づいてきて……。

わたしは思わず、塀を見上げる。
いつもと変わらない風景に、人の姿が現れた。

「えっ……──」

目が合った。
驚く暇もない。
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