チート幼なじみの真也くんは甘過ぎるのに見えません!

真也くん、お泊まりなんて聞いてません

〇真也の家・真也の部屋

首にキスをされていて抵抗はしないものの混乱するひまり。
真っ赤になりながら手が震えていることに気づく真也。
ぎゅっとひまりを抱きしめてからパッと離れ優しく微笑む。

真也「……泊まりならまだ時間たっぷりあるよね。勉強も少しなら俺も教えられるかもだし」
ひまり「へ?」

ニコッと笑う真也がひまりのポケットから落ちたぐちゃぐちゃな45点のテストをもっている。

ひまり「わーっ!!!」

羞恥心で慌てるひまりが真也からテストを奪う。

真也「このテストの時ひまりウトウトしてたよね。寝不足だった?」
ひまり(なんで知ってるの??同じテスト受けてたよね???)
ひまり「し、真也くんは何点だったの?」
真也「ん?」

真也が鞄からゴソゴソ何枚か適当に折られたテスト用紙を取り出しその内の一枚をひまりに見せる。100点。

ひまり「ひえ……っ」

その他のも雑に置かれているため少し点数が見えてしまう。すべて100点。

真也「たまたま得意なところだったから」
ひまり(たまたまとかいうレベルじゃない。自分馬鹿すぎて恥ずかしくなってきた)

ひまり「お、教えていただけますでしょうか……」

うるっと、半泣きで真也を仰ぎ見るひまり。

真也「えっ、誘っ、じゃない、うん、もちろん」
ひまり「(誘?)ありがとうございますかたじけないです」

真也がひまりの手を両手で握りながら。

真也「なんでも。なんでも教えるから。準備万端にしておくから」
ひまり「(お、鬼教師……!)宜しくお願いします!」
真也「……ということは、ひまりが今日泊まってくってことで……」
ひまり「あっ、えっと、それは」

――バーン!

真也の部屋のドアが勢いよく開かれる。
ハリウッド女優のような美女がプリン片手に入ってくる。

真也の母「ひまりちゃぁん! 泊まっていきなさーい!」

――ドンッ!

びくっとして慌てて真也を突き飛ばすひまり。

真也「わっ!! 真也くんごめんね……!」
真也「母さん、勝手に入ってこないで」
ひまり「……ま、まさか、チグノミカン先生!?  じゃない、じゃなくはないけど、真也くんのお母さん……!」
ひまり(待ってさっき見た写真と全然変わってない……美人……!)
真也の母「そうでーす! ひまりちゃんお久しぶり〜♡♡ 大きくなってえ♡♡」
あからさまに迷惑そうな真也がさっとひまりを後ろへ隠す。
真也「……母さん、締め切り前で修羅場じゃなかったの?」
真也の母「そうなのよ。だから糖分補給しに仕事部屋から出たらひまりちゃんの気配がしてね♡」

ズバッと真也の後ろへ回りこみ、ひまりの手を取る真也の母。

真也「ねえそれひまりに作ったプリンなんだけど」
真也の母「大丈夫よ。ふたつあったうちの1つしか食べてないから♡」
真也「……チッ」
ひまり(舌打ち!?)
真也の母「ひまりちゃん♡ うちの真也がすけべなこととかいやらしいことしてない??大丈夫??」
ひまり「へ!?」

キスのことを思い出して赤くなるひまり。

ひまり「だ、大丈夫です……」
真也「ひまりは彼女だもん。大事にしてるからご心配なく」
真也の母「あらそうーよかった♡あ、で、お泊まりなんだけど今日はわたしと一緒に寝ようね♡」
真也「え」
真也の母「あんたが我慢できるとは思えないし?ウブなひまりちゃんを傷つけるつもり?紳士ならそれくらい弁えたらどう?私娘と寝るのが夢だったの〜♡あ、パジャマならかわいいのを用意するから安心して――」
ひまり「あっ、その、ごめんなさい、お泊まりはできなくてっ」

ぴたっと動きがとまる真也の母と真也。
少し遠慮がちにひまりが笑う。

ひまり「おばあちゃんがご飯作ってくれてるから」

ちらっと真也の部屋の時計をみるひまり。19時過ぎ。

真也の母「あっ、そうよね。ごめんなさいね、勝手に盛り上がっちゃって」
ひまり「い、いいえっ! お泊まりはまた今度、させてください」

遠慮がちに笑うひまり。
真也がいたずらっぽくにやっと笑う。

真也「言質とった」

真也がひまりの手を握る。

真也「送らせてくれる?」
ひまり「え、いいよ。真也くんもお夕飯とかあるだろうし……」
真也「もう少しひまりと一緒にいたい……だめ?」

クーン、と犬が甘えるような雰囲気に思わず受け入れてしまうひまり。

ひまり「だめじゃないけど……」
ひまり(真也くん、彼女にはこんな感じなんだなあ)
ひまり「ちょっとおばあちゃんに電話してくるね」

パタパタと部屋を出ていくひまり。
真也と真也の母ふたりになる。

真也「複雑なんだ。首突っ込まないで」
真也の母「そーみたいねえ……」


〇真也の家・玄関


真也の家の玄関で母に見送られるひまりたち。

真也の母「ひまりちゃん」
ひまり「はい」
真也の母「この辺も随分変わったわね。私たちが引っ越したのが真也が小学校に上がる前だからもう……12年も前。駅前のレトロな商店街とか住宅街のすぐ近くに森があるのが気に入ってたけど、カフェやマンションになってた」
ひまり「そうですね……」
真也の母「でもね、変わらないものってあると思うの。それこそ運命の赤い糸みたいに」
ひまり「……えっ」
真也の母「ふふっ、自作の話よ」
ひまり「あっ……そうですよね。新刊、楽しみにしてますっ!」

真也「ひまり、いこ」
差し出された手をおずおずと握るひまり。


〇真也の家からひまりの家までの帰り道・夜

街灯が少ない道を手をつないで歩くふたり。

ひまりがちらっと背後をみる。大きな邸宅が並んでいる通りをじっと見つめる。
そこは過去にひまりの家があった場所。

ひまり(普段はもう意識することなんてなかったのに……)

ふと真也の指をみる。糸はない。

ひまり(昔から……こうだったけ?)

靄のかかった記憶。幼いひまりと真也の姿が先ほど写真で見た以上のこととして思い出せない。

真也がひまりの顔を覗き込むようにして立ち止まる。

真也「ひまり?」
ひまり「あっ……ごめんね。えっと……」

癖で誤魔化そうとしたが真也が糸が視えることを知っていることを思い出す。

ひまり「真也くんはどうして私を彼女にしてくれたの?」
ひまり(って……そんなこと聞いてどうするの)

きょとん、とした顔の真也が当然のように答える。

真也「好きだから」
ひまり「(幼なじみとしてってことだよね)う、うん、それは嬉しいけど」

繋いだ手を強く握る真也。

真也「幼なじみとしてじゃないよ」
ひまり「え?」

きょとん、としたひまりにムッとする真也。目の端を赤くする。

真也「じゃあ、ひまりはどうして俺と付き合ってくれてるの? 俺が好きだって言ったから? こうやって手が繋げたり、キスの体験ができるから?」
ひまり「それは……」

答えられずうつむいてしまうひまり。

ひまり(付き合った理由……それは真也くんだって同じだよね。告白よけのために幼なじみのわたしが都合良かったんだよね?)


真也「ごめん。急いでるんだったよね」

真也がひまりの手を引いて歩く。するり、と手が解ける。


〇ひまりの家の前・夜

辺りは閑静な住宅街。古い家が建ち並びその中でも一際古い家の前でふたりは止まる。
表札には【高橋綾子・ひまり】と記されている。


真也「じゃぁ、俺帰るね。遅くまでごめん」
ひまり「ううん、こちらこそ……」

ぎこちない雰囲気のふたり。
ちらっと真也の左手と右手をみるひまり。

ひまり(赤くない、どころか糸が存在してないんだから。真也くんは私のことが好きなわけじゃない)

真也「俺の糸見てる?」
ひまり「あ……」

なんて言えばいいか分からない表情。
ひまり(さすがに糸がない、なんて言えない。すごく失礼だもん)
真也「こっち見て、ひまり」

真也に頬に触れられて顔を上げさせられる。
泣きそうな顔の真也。
はっとするひまり。ごめんね、と言いそうになるけど真也がそれを遮る。

真也「謝らないで」

じっと見つめ合うふたり。

ひまり(真也くんの目、なんだかキラキラしてて綺麗……)

むにっと、深夜がひまりの頬を摘む。

ひまり「んむっ!?」
真也「やっぱり、どう考えても俺しか好きじゃなくて悔しい」

真也の真剣な顔と声。
むにーっとひっぱってからパッと手を離す。

ひまり「なっ、なんで」
真也「おやすみ。また明日」

ひまりを玄関前まで送り、そのまま踵を返してしまう真也。

ひまり「あ……っ」

追いかけようとしてやめる。

ひまり「……本当に?」

自分の口元をおさえる。


〇ひまりの家・居間

畳の部屋。祖母とテーブルで向かい合ってごはんを食べている。

ひまり「遅くなっちゃってごめんね……あ、この鮭美味しい」
おばあちゃん「ひまりちゃん。あの男の子とお付き合いしてるの?」
ひまり「んっ!? ごほっ、けほっ」

唐突なおばあちゃんの発言に噎せるひまり。

おばあちゃん「あ、この煮物もお食べ」

平然としているおばあちゃん。ふわふわと周りに花が飛んでいそうな雰囲気。

ひまり「えっ、えっと、なんで」
おばあちゃん「家の前だったからたまたま見えちゃってねえ」
ひまり「あー……えっとね、あの人は幼稚園が一緒だった人で、最近うちの学校に転校してきて」
ひまり(おばあちゃんにお試しでお付き合いしてます☆なんて言えない!倒れちゃう!)

言い訳っぽくなってしまい食事をする手が止まるひまり。
おばあちゃんが穏やかにひまりを見つめる。

おばあちゃん「大事なひとなんだねえ」

ひまりはおばあちゃんの核心をつくような言葉に驚いてから恥ずかしげに目を伏せる。

ひまり「――うん」


食事が終わり食器を洗っているひまり。

おばあちゃん「ひまりちゃん、2年生になってもお弁当いらないの?」
ひまり「うん。購買のパン美味しいから好きなんだ」

ひまり(私が自分で作るって言ったときは私より早く起きて作ってくれて……これ以上面倒かけたくない。おばあちゃんにはずっと苦労掛けてきてるし)

おばあちゃん「じゃあお小遣いわたそうねえ」

お財布を出すおばあちゃんを止めるひまり、

ひまり「ううん、大丈夫! 先月のバイト代がまだ残ってるから。また短期で探してるし」
おばあちゃん「……ひまりちゃん、最近絵描いてないねえ」

ひまりがキュッと蛇口を捻って水を止める。
おばあちゃんにあっけらかんとした笑顔で振り返りながら。

ひまり「飽きちゃった。中学でずっと描いてたし」
おばあちゃん「そう……そうね、もうここへきて12年になるんだもんねえ」
ひまり「そうだよー」

へらへらっと笑うひまり。

おばあちゃん「……お風呂湧いてるから入っちゃいなねえ」
ひまり「うん。ありがとう、おばあちゃん」


〇ひまりの家・お風呂

湯船に浸かっているひまり。
スマホで漫画を読んでいる。親子の再会感動シーン。

ひまり(あれからもう12年かぁ……)

〇12年前・回想

祖母にひまりをあずける両親。

ひまりの母「ひまり。今日からおばあちゃんと暮らすのよ」
ひまりの父「ひまりはおばあちゃんが好きだから寂しくないよな」
ひまり「お母さん……! お父さん……! ごめんなさいっ、もうっ、もう見えないから……!ごめんなさい……!」

泣きながら手を伸ばすひまり。遠ざかる両親。


〇ひまりの家・お風呂

お風呂の湯船でぽちゃん。鼻下まで浸かっている。

ひまり(お母さんとお父さんが険悪になって私をおばあちゃんに預けたままそれそぞれいなくなったのはちょうど真也くんが海外へ行ってすぐ、赤いランドセルを背負えるのが嬉しくて仕方なかった頃……わたしのせいだった)

〇12年前・回想

ひまりが父の指にある赤い糸が母の糸と繋がっていないことに気づく。
家に訪問していた父の部下だという女性と糸が繋がっている。

ひまり「お父さんの運命の人はお姉さんなんだね!」

無邪気に笑うひまり。
動揺する父と激昂する母。

〇ひまりの家・お風呂

ぶくぶくと湯船に沈んでいくひまり。

ひまり(今思えば赤い糸じゃなくて濃い紫だった気もするけど……不倫とはいえわたしがあんなこと言わなければたぶん……)

――ティンティロティン

電話が鳴る。はっとして出るひまり。

ひまり「――はいっ」
真也「今大丈夫?」

深夜の声にどきりとする。

ひまり「うんっ、平気。お風呂入ってた」
真也「……かけ直そうか?」
ひまり「ううん。……あの、今日はごめんね」
真也「あー……」

謝らないで、と言いたげな雰囲気。
電話の向こうで頭をわしゃわしゃする音がする。

真也「俺がお試しで良いっていったんだから、怒るほうが変だった」

言い切る真也。

真也「好きだよ。ひまり。恋人になりたい、の好き」

甘い声で真也がいう。

ひまり「……あっ……その……それって……」

ひまりは思考が全く追いつかない。どういうこと?なんでわたし?お試しで次ごうがいいからじゃかなったの?そんなあり得ないことが起こっているとしたら私の行動も発言も最低すぎるよね?

真也「週末空いてる? デートしたい」
ひまり「う、うん。空いてるけど……」
真也「俺、ひまりの彼氏になれるよう頑張るから。ひまりに好きになって貰えるように、赤い糸があるって証明する」
ひまり「あっ……えっと……」

まだ自分の気持ちが分からないひまりは少し戸惑う。

真也「うん。いいよ。今は俺を好きじゃなくても、俺はもう離れるつもりないから」

ひまり「あっ、あのね、真也くん、わたし……」

また自分の気持ちが分からない、そう言おうとしたが真也が止めるように言う。

真也「――仮の付き合いが終わるまででいいから、俺のこと頭のてっぺんからつま先まで考えてみてほしい。それでもだめなら……諦めるから」

ひまり(いやいや! 真也くんが諦めるとかそんなこと言わせられるような立場では……でもこういうときなんて言ったらいいか分からない……)

真也「おやすみ、ひまり」

そういうと一方的に電話を切る真也。

ひまりは電話を見つめたままじわじわ赤くなる。

ひまり「……おやすみなさい」



〇真也の部屋

切った電話を見つめる真也。
自分の左手をみる。真也にはなにも視えていない。

真也「やっぱり覚えてない、かぁ……」

〇真也の記憶

ぼんやりとした記憶。幼稚園の頃のひまりだけが鮮明。
真也に糸のようなものがぐるぐるに絡みついていたがそれが光に闇が解けるように消えていく。
泣いている幼稚園児の真也をひまりが抱きしめている。

幼稚園児のひまり「だいじょうぶたよ。これでだいじょうぶたから。ぜんぶわすれちゃおうね」


〇真也の部屋

真也がゆっくり目を開ける。

真也「……本当に全部忘れてるっぽいなぁ」

真也(赤い糸なんかなくても俺はひまりを離すつもりないけど。もう二度と)

にっこりと甘い笑みを零す真也。
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