チート幼なじみの真也くんは甘過ぎるのに見えません!
真也くん、初デートが甘過ぎます
〇遊園地の最寄り駅・昼
駅の改札口へ向かうひまり。
ガラスに映った自分の姿を横目にみる。
ひまり(服、変じゃないかな……)
ひまり(週末まで色々あったなあ)
真也との学校での出来事を思い出すひまり。一緒に昼食を食べたり一緒に下校したり。
ひまり(……付き合う前と変わらないかも)
ひまり(美紀ちゃんは『やっぱり』って呆れ顔だったなあ……まだ『お試し』なんだとは言えなかった……)
ひまり(自分の気持ちと……向き合わないと)
ひまり(あ! 真也くんに着いたよって連絡しなきゃ! でも10:00待ち合わせでまだ9:45分だから早いかな)
スマホで真也とのやりとりの履歴を眺めているひまり。
ひまり(結局チケット代、受け取ってもらえなかったな……)
〇ひまりのスマホの履歴
真也 20:23 『週末のデート、遊園地はどうかな』
ひまり 20:40『遊園地いきたい!』
真也 20:41『遊園地にしよう』
真也 20:43『チケット取ったよ!』
ひまり20:54『早いね…!? ありがとう、明日お金渡すね』
真也20:55『お金よりひまりの私服の写真撮影権がほしいな』
ひまり21:03『誰得なの…?』
〇遊園地の最寄り駅・昼
駅の壁の前で立ち止まるひまり。
ひまりが着いたよ、と連絡すると即既読がつく。
真也「ひまり!」
飼い主を見つけた子犬のようなテンションでひまりに駆け寄る。
洗練された私服に思わずどきっとする。
ひまり(かっこいい……)
周りが真也を見てイケメンだと羨望を注ぎ黄色い声をあげている。
その中の数人が「あれってまさか彼女?」「違うでしょー正反対のタイプって感じじゃん(笑)」と笑っている。
ひまり(わあ……わたしもそう思います)
無意識に後ずさってしまったひまりにスマホで写真撮りながら近づいてくる真也。
真也「私服かわいすぎ……特権最高……」
ひまり「あ……わ……?」
状況に困惑しながらも周りの女子がざわついているのが気になるひまり。
そんなひまりに気づいた真也がひまりの手を取って繋いで歩き出す。
真也「いこ!」
心臓の音が急激に高まって動揺するひまり。
ひまり「う、うん」
真也の手が少しひんやりとしていることに気づくひまり。
ひまり「ごめんね待たせちゃった?」
真也「全然。俺も今来たとこ(本当は楽しみ過ぎて2時間前に来ちゃったけど)」
ひまり「そっか。よかった」
〇遊園地・週末
大雨が降っている。
頭にキャラクターのカチューシャをつけて立ち竦むふたり。
ひまり「さっきまで晴れてたのに……」
真也「きっと通り雨だよ。すぐ止む……」
真也がスマホで天気予報を見る。
画面には『速報!天気の急変に注意!夜遅くまで雨が降るでしょう』と表示されている。
真也「……っ、てるてる坊主10個作ったのに」
がっかりしてうなだれる真也と慰めるひまり。
屋外遊園地だからアトラクションは軒並み運休。
ひまり(てるてる坊主……?)
真也「今日はもう流石に遊園地は無理そうだよね……ごめん俺の計画性の無さで初休日デートを台無しに……」
ひまり「そんなことないよ! えっ、と、天気は仕方ないし! せっかくだしお土産屋さんちょっと見ない?」
真也がひまりの服と髪が少し雨に濡れてしまっていることに気づく。
真也「濡れちゃったね」
真也が取り出した自分のハンカチでひまりの髪を拭く。
ひまりが腕の逞しさにどきりとする。
ひまり「あ、ありがとう……放っとけば乾くし大丈夫だよ。それより真也くんも濡れちゃってるから自分のこと拭いて。風邪引いちゃう」
真也がひまりの濡れた服から下着がうっすら透けていることに気づく。
真也「……っちょっと待ってて」
真也が慌てて近くのお土産屋に入り速攻で戻ってくる。
手にはテーマパークのキャラクターがワンポイントで刺繍されたTシャツ。
真也「これ、シンプルなやつ選んだから嫌じゃなかったら着て」
ひまり「え……っ、そんなっ、悪いよ……せめてお金……」
真也「……その、服、透けてて……困る……(理性的な問題で)」
ひまり「!……ご、ごめんね!有り難く着替えてくる!(変なもの見せるなってことだよね恥ずかしいごめんなさい)」
着替えのためにトイレに駆け込むひまり。
真也(ひまり遅いな……着替え時間かかってるのかな)
時計を確認してからひまりを迎えにトイレ前に行こうとする真也。
ひまり「真也くん! 待たせちゃってごめんね! レジ混んでて……っ」
息を切らして走ってきたひまり。
ひまり「一番近いお店だとメンズSサイズしか残ってなくて……ちょっと離れたところ行ってたの」
ひまりが真也に自分が着ているTシャツのペアを渡す。
真也「ひまりが俺に……?」
ひまり「あっ、でももう服乾いてきちゃったね。ごめんね遅くなって」
真也「今着たい」
真也がその場で肌を見せず器用に着替える。
ハイブランドのシャツにしかみえない。
ひまり「……同じTシャツなのになんか全然違うものみたい」
真也「ひまりが着てると爆売れしそうだよね」
ひまり「それはないと思う」
冗談じゃなさそうな雰囲気で言う真也にひまりがぷはっと笑う。
ひまり「お揃いなら一緒に買いに行けばよかったね」
真也が目を瞠った後に柔らかく笑ってひまりの髪に触れる。
真也「うん、次来るときはそうしよう」
〇遊園地の中のフードコート
飲み物を飲みながら座ってデートの行き先を決めるふたり。
ひまり「映画――は、面白そうって言ってたの満席みたいだね」
真也「水族館も当日券は売り切れみたいだ」
チグノミカン先生
うーん、と悩むふたり。
真也(俺はひまりと一緒ならどこでなにしてても最高だからいいけど、ひまりは……そうじゃないよな。絶対楽しんで欲しいし……あわよくばそのまま俺のことも好きになって欲しい)
ひまりがあっ、と声をあげる。
ひまり「これっ、チグノミカン先生(真也くんママ)の原画展!」
真也「ああ……そういえばやるって言ってたような……」
ひまりが目をキラキラさせる。
ひまり「……屋内だし、どうかな……あのっ、この近くにケーキが美味しいカフェもあって……」
もじもじと提案するひまり。行きたいけど、初デートにはふさわしくないか、と葛藤している。
ひまり「あっ、でも全然自分一人で行ってもいいし、むしろそのほうがいいかな」
真也「一緒に行こう」
ひまりを愛おしそうな目でみる真也。
ひまり「……いいの?」
真也「うん。ひまりが行きたいところなら俺も行きたい」
〇チグノミカン先生の原画展・昼
ひまりは目を輝かせながら展示物をみている。
ひまり「わあ~! すごいっ、あっ、あのシーンだ! あっ、ここ目腫れるくらい泣いたなぁ」
真也「ひまり、これひまり好きだって言ってたキャラじゃない?」
ひまり「わっ! そうなの……! かっこいいなぁ」
真也「……相手は二次元。相手は二次元」
嫉妬を抑えようとしている真也。ひまりはそれを退屈なのかと受け取る。
ひまり「あっ……ごめんね。私ばっかりはしゃいじゃって……」
真也「ひまり謝りすぎ。俺はひまりが楽しそうにしてるの見てるのがめちゃくちゃ楽しいからいいの」
ひまり「……っ、そんな」
そんなの優しすぎて困る、という顔をする。
真也がひまりの背後の絵に気をとられる。
真也「あの絵……」
ひまり「え?」
振り返るひまり。そこには漫画っぽくない、一本の糸の絵画が展示されている。
ひまり「……綺麗」
ひまりが吸い寄せられるようにその絵の前にいく。
真也「母さんの……ではあるみたい。こんなの描いてたんだな」
タイトルに『イト』とつけられている。チグノミカンの名も。
じっと感動している瞳で見つめるひまり。
ひまり(なんだろう……この胸がきゅうってなる感じ……)
真也「ひまりはもう、描かないの?」
ひまり「え?」
真也「ほら、昔は絵描くのが好きだったみたいだから。俺も似顔絵描いて貰ったし」
真也の家で見た写真を思い出す。確かに昔はよく絵を描いていた。
ひまり「幼稚園の頃だもん。かなり昔だよ」
ひまりは目を伏せる。
ひまり「中学の時は美術部で……ちょっと描いてたけど、なんかもういいかなって」
真也「飽きちゃった?」
ひまり「んー……部活内で恋愛受けてて、それで糸が結ばれてないふたりを無理矢理結ぼうとしたりしたの……それで変なやつって扱われて。当然だよね。神様にでもなったつもりでいたのかな」
絵に視線を置いたまま思い出して情けなくなるひまり。じわっと涙がにじみそうになる。
真也は黙ってひまりの手を握る。
ひまり「……それで、居づらくなって退部したの。でも噂が広まっちゃったから高校でもああやって恋愛相談受けてて……自業自得だよ」
真也「辛いこと思い出させてごめん」
首を横に振るひまり。
ひまり「でも……わたし結構わがままかもしれないの。今、ちょっと描きたいなって思っちゃった」
困ったように笑うひまり。
真也がきゅっと唇を結ぶ。
真也「ひまり、俺、来月の5月12日誕生日なんだ」
ひまり「来月!? えっと、なにか欲しいものある?」
真也「ひまりが一緒にいてくれるのが一番なんだけど……」
ひまり「一緒にはいるけど……!」
真也(いてくれるんだ)
真也「じゃあ、そうだな。んー……わがままいっていい?」
ひまり「うんうん!」
真也「ひまりが描いた絵が欲しい」
真剣な瞳でひまりをみる真也。驚いて目をそらしてしまうひまり。
ひまり「そんな、ひとに見せられるものなんて、わたし全然……さっき描きたいって言ったのは落書きとかで……」
真也「……だめ?」
ひまり(……やっぱりずるいのは真也くんだよ)
ひまり「……本当、期待しないでください」
押しに押されて受け入れる。
にこっと満面の笑みを浮かべる真也。
真也「――ごめん。ずるいって思ってる。ひまりは優しいからそういえば断らないって……恋愛相談する子たちと同じだね」
ひまり「っ、それは! いや、真也くんはずるいけど! でも、違うの。あの子たちも真也くんもわたしを信頼してくれて……嬉しいから」
真也(どこまで優しいんだひまりは……心配になる)
あっちの絵も見よう、と人がいない方へ向かったひまり。
ほどけた手を再度にぎる真也。
真也「ひまり」
ひまり「ん?」
真也「お試しのことだけど……」
ひまり、どきりとする。
ひまり「う、うん……(止めたい、とか?)」
真也「3ヶ月、俺にちょうだい。絶対に好きになってもらうから」
自信ありげな表情。なぜかほっとしてしまうひまり。
ひまり(……ほっと?)
ひまり「私も……真也くんのこと知りたい。ちゃんと……だから宜しくお願いします」
頭を下げるひまり。
真也「真面目すぎ」
ひまり「だって……っ、一大事なんだよ、モテモテな真也くんには分からないかもしれないけど……っ」
真也「彼氏ができる、とか? それを俺が彼氏になったら、にするつもりだから」
ひまり「……っ」
真也「絵、続き見よ。それからケーキも食べたいし」
〇カフェ・夕方
ふたりでケーキを食べている。
ひまり「ふふっ」
真也「どうしたの、可愛い顔して」
ひまり「なっ……わたしたち格好だけ見たら遊園地すごく楽しんできた人たちみたいだなって」
真也「たしかに。実際行ったのは原画展だけど」
ひまり「ねー。原画展のお土産厳選したのに結構買っちゃったし」
真也「母さんに頼めばいくらでも貰えそうなのに」
ひまり「それはだめ! 少しでも先生にお金落としたいの!」
真也「そういうものかあ……あっ、さっきの絵のことだけど、絵の具とか母さんの使ってたやつが山ほど余ってるから――」
ひまり「ううん! プレゼントなんだし、ちゃんと自分で準備したいから」
ひまり(昨日計算したら今日のデート代で結構カツカツだったし、これからお出かけする時の予算も欲しいし、なにより画材……! バイトしよ!)
真也(……なんか、俺墓穴掘った気がする)
駅の改札口へ向かうひまり。
ガラスに映った自分の姿を横目にみる。
ひまり(服、変じゃないかな……)
ひまり(週末まで色々あったなあ)
真也との学校での出来事を思い出すひまり。一緒に昼食を食べたり一緒に下校したり。
ひまり(……付き合う前と変わらないかも)
ひまり(美紀ちゃんは『やっぱり』って呆れ顔だったなあ……まだ『お試し』なんだとは言えなかった……)
ひまり(自分の気持ちと……向き合わないと)
ひまり(あ! 真也くんに着いたよって連絡しなきゃ! でも10:00待ち合わせでまだ9:45分だから早いかな)
スマホで真也とのやりとりの履歴を眺めているひまり。
ひまり(結局チケット代、受け取ってもらえなかったな……)
〇ひまりのスマホの履歴
真也 20:23 『週末のデート、遊園地はどうかな』
ひまり 20:40『遊園地いきたい!』
真也 20:41『遊園地にしよう』
真也 20:43『チケット取ったよ!』
ひまり20:54『早いね…!? ありがとう、明日お金渡すね』
真也20:55『お金よりひまりの私服の写真撮影権がほしいな』
ひまり21:03『誰得なの…?』
〇遊園地の最寄り駅・昼
駅の壁の前で立ち止まるひまり。
ひまりが着いたよ、と連絡すると即既読がつく。
真也「ひまり!」
飼い主を見つけた子犬のようなテンションでひまりに駆け寄る。
洗練された私服に思わずどきっとする。
ひまり(かっこいい……)
周りが真也を見てイケメンだと羨望を注ぎ黄色い声をあげている。
その中の数人が「あれってまさか彼女?」「違うでしょー正反対のタイプって感じじゃん(笑)」と笑っている。
ひまり(わあ……わたしもそう思います)
無意識に後ずさってしまったひまりにスマホで写真撮りながら近づいてくる真也。
真也「私服かわいすぎ……特権最高……」
ひまり「あ……わ……?」
状況に困惑しながらも周りの女子がざわついているのが気になるひまり。
そんなひまりに気づいた真也がひまりの手を取って繋いで歩き出す。
真也「いこ!」
心臓の音が急激に高まって動揺するひまり。
ひまり「う、うん」
真也の手が少しひんやりとしていることに気づくひまり。
ひまり「ごめんね待たせちゃった?」
真也「全然。俺も今来たとこ(本当は楽しみ過ぎて2時間前に来ちゃったけど)」
ひまり「そっか。よかった」
〇遊園地・週末
大雨が降っている。
頭にキャラクターのカチューシャをつけて立ち竦むふたり。
ひまり「さっきまで晴れてたのに……」
真也「きっと通り雨だよ。すぐ止む……」
真也がスマホで天気予報を見る。
画面には『速報!天気の急変に注意!夜遅くまで雨が降るでしょう』と表示されている。
真也「……っ、てるてる坊主10個作ったのに」
がっかりしてうなだれる真也と慰めるひまり。
屋外遊園地だからアトラクションは軒並み運休。
ひまり(てるてる坊主……?)
真也「今日はもう流石に遊園地は無理そうだよね……ごめん俺の計画性の無さで初休日デートを台無しに……」
ひまり「そんなことないよ! えっ、と、天気は仕方ないし! せっかくだしお土産屋さんちょっと見ない?」
真也がひまりの服と髪が少し雨に濡れてしまっていることに気づく。
真也「濡れちゃったね」
真也が取り出した自分のハンカチでひまりの髪を拭く。
ひまりが腕の逞しさにどきりとする。
ひまり「あ、ありがとう……放っとけば乾くし大丈夫だよ。それより真也くんも濡れちゃってるから自分のこと拭いて。風邪引いちゃう」
真也がひまりの濡れた服から下着がうっすら透けていることに気づく。
真也「……っちょっと待ってて」
真也が慌てて近くのお土産屋に入り速攻で戻ってくる。
手にはテーマパークのキャラクターがワンポイントで刺繍されたTシャツ。
真也「これ、シンプルなやつ選んだから嫌じゃなかったら着て」
ひまり「え……っ、そんなっ、悪いよ……せめてお金……」
真也「……その、服、透けてて……困る……(理性的な問題で)」
ひまり「!……ご、ごめんね!有り難く着替えてくる!(変なもの見せるなってことだよね恥ずかしいごめんなさい)」
着替えのためにトイレに駆け込むひまり。
真也(ひまり遅いな……着替え時間かかってるのかな)
時計を確認してからひまりを迎えにトイレ前に行こうとする真也。
ひまり「真也くん! 待たせちゃってごめんね! レジ混んでて……っ」
息を切らして走ってきたひまり。
ひまり「一番近いお店だとメンズSサイズしか残ってなくて……ちょっと離れたところ行ってたの」
ひまりが真也に自分が着ているTシャツのペアを渡す。
真也「ひまりが俺に……?」
ひまり「あっ、でももう服乾いてきちゃったね。ごめんね遅くなって」
真也「今着たい」
真也がその場で肌を見せず器用に着替える。
ハイブランドのシャツにしかみえない。
ひまり「……同じTシャツなのになんか全然違うものみたい」
真也「ひまりが着てると爆売れしそうだよね」
ひまり「それはないと思う」
冗談じゃなさそうな雰囲気で言う真也にひまりがぷはっと笑う。
ひまり「お揃いなら一緒に買いに行けばよかったね」
真也が目を瞠った後に柔らかく笑ってひまりの髪に触れる。
真也「うん、次来るときはそうしよう」
〇遊園地の中のフードコート
飲み物を飲みながら座ってデートの行き先を決めるふたり。
ひまり「映画――は、面白そうって言ってたの満席みたいだね」
真也「水族館も当日券は売り切れみたいだ」
チグノミカン先生
うーん、と悩むふたり。
真也(俺はひまりと一緒ならどこでなにしてても最高だからいいけど、ひまりは……そうじゃないよな。絶対楽しんで欲しいし……あわよくばそのまま俺のことも好きになって欲しい)
ひまりがあっ、と声をあげる。
ひまり「これっ、チグノミカン先生(真也くんママ)の原画展!」
真也「ああ……そういえばやるって言ってたような……」
ひまりが目をキラキラさせる。
ひまり「……屋内だし、どうかな……あのっ、この近くにケーキが美味しいカフェもあって……」
もじもじと提案するひまり。行きたいけど、初デートにはふさわしくないか、と葛藤している。
ひまり「あっ、でも全然自分一人で行ってもいいし、むしろそのほうがいいかな」
真也「一緒に行こう」
ひまりを愛おしそうな目でみる真也。
ひまり「……いいの?」
真也「うん。ひまりが行きたいところなら俺も行きたい」
〇チグノミカン先生の原画展・昼
ひまりは目を輝かせながら展示物をみている。
ひまり「わあ~! すごいっ、あっ、あのシーンだ! あっ、ここ目腫れるくらい泣いたなぁ」
真也「ひまり、これひまり好きだって言ってたキャラじゃない?」
ひまり「わっ! そうなの……! かっこいいなぁ」
真也「……相手は二次元。相手は二次元」
嫉妬を抑えようとしている真也。ひまりはそれを退屈なのかと受け取る。
ひまり「あっ……ごめんね。私ばっかりはしゃいじゃって……」
真也「ひまり謝りすぎ。俺はひまりが楽しそうにしてるの見てるのがめちゃくちゃ楽しいからいいの」
ひまり「……っ、そんな」
そんなの優しすぎて困る、という顔をする。
真也がひまりの背後の絵に気をとられる。
真也「あの絵……」
ひまり「え?」
振り返るひまり。そこには漫画っぽくない、一本の糸の絵画が展示されている。
ひまり「……綺麗」
ひまりが吸い寄せられるようにその絵の前にいく。
真也「母さんの……ではあるみたい。こんなの描いてたんだな」
タイトルに『イト』とつけられている。チグノミカンの名も。
じっと感動している瞳で見つめるひまり。
ひまり(なんだろう……この胸がきゅうってなる感じ……)
真也「ひまりはもう、描かないの?」
ひまり「え?」
真也「ほら、昔は絵描くのが好きだったみたいだから。俺も似顔絵描いて貰ったし」
真也の家で見た写真を思い出す。確かに昔はよく絵を描いていた。
ひまり「幼稚園の頃だもん。かなり昔だよ」
ひまりは目を伏せる。
ひまり「中学の時は美術部で……ちょっと描いてたけど、なんかもういいかなって」
真也「飽きちゃった?」
ひまり「んー……部活内で恋愛受けてて、それで糸が結ばれてないふたりを無理矢理結ぼうとしたりしたの……それで変なやつって扱われて。当然だよね。神様にでもなったつもりでいたのかな」
絵に視線を置いたまま思い出して情けなくなるひまり。じわっと涙がにじみそうになる。
真也は黙ってひまりの手を握る。
ひまり「……それで、居づらくなって退部したの。でも噂が広まっちゃったから高校でもああやって恋愛相談受けてて……自業自得だよ」
真也「辛いこと思い出させてごめん」
首を横に振るひまり。
ひまり「でも……わたし結構わがままかもしれないの。今、ちょっと描きたいなって思っちゃった」
困ったように笑うひまり。
真也がきゅっと唇を結ぶ。
真也「ひまり、俺、来月の5月12日誕生日なんだ」
ひまり「来月!? えっと、なにか欲しいものある?」
真也「ひまりが一緒にいてくれるのが一番なんだけど……」
ひまり「一緒にはいるけど……!」
真也(いてくれるんだ)
真也「じゃあ、そうだな。んー……わがままいっていい?」
ひまり「うんうん!」
真也「ひまりが描いた絵が欲しい」
真剣な瞳でひまりをみる真也。驚いて目をそらしてしまうひまり。
ひまり「そんな、ひとに見せられるものなんて、わたし全然……さっき描きたいって言ったのは落書きとかで……」
真也「……だめ?」
ひまり(……やっぱりずるいのは真也くんだよ)
ひまり「……本当、期待しないでください」
押しに押されて受け入れる。
にこっと満面の笑みを浮かべる真也。
真也「――ごめん。ずるいって思ってる。ひまりは優しいからそういえば断らないって……恋愛相談する子たちと同じだね」
ひまり「っ、それは! いや、真也くんはずるいけど! でも、違うの。あの子たちも真也くんもわたしを信頼してくれて……嬉しいから」
真也(どこまで優しいんだひまりは……心配になる)
あっちの絵も見よう、と人がいない方へ向かったひまり。
ほどけた手を再度にぎる真也。
真也「ひまり」
ひまり「ん?」
真也「お試しのことだけど……」
ひまり、どきりとする。
ひまり「う、うん……(止めたい、とか?)」
真也「3ヶ月、俺にちょうだい。絶対に好きになってもらうから」
自信ありげな表情。なぜかほっとしてしまうひまり。
ひまり(……ほっと?)
ひまり「私も……真也くんのこと知りたい。ちゃんと……だから宜しくお願いします」
頭を下げるひまり。
真也「真面目すぎ」
ひまり「だって……っ、一大事なんだよ、モテモテな真也くんには分からないかもしれないけど……っ」
真也「彼氏ができる、とか? それを俺が彼氏になったら、にするつもりだから」
ひまり「……っ」
真也「絵、続き見よ。それからケーキも食べたいし」
〇カフェ・夕方
ふたりでケーキを食べている。
ひまり「ふふっ」
真也「どうしたの、可愛い顔して」
ひまり「なっ……わたしたち格好だけ見たら遊園地すごく楽しんできた人たちみたいだなって」
真也「たしかに。実際行ったのは原画展だけど」
ひまり「ねー。原画展のお土産厳選したのに結構買っちゃったし」
真也「母さんに頼めばいくらでも貰えそうなのに」
ひまり「それはだめ! 少しでも先生にお金落としたいの!」
真也「そういうものかあ……あっ、さっきの絵のことだけど、絵の具とか母さんの使ってたやつが山ほど余ってるから――」
ひまり「ううん! プレゼントなんだし、ちゃんと自分で準備したいから」
ひまり(昨日計算したら今日のデート代で結構カツカツだったし、これからお出かけする時の予算も欲しいし、なにより画材……! バイトしよ!)
真也(……なんか、俺墓穴掘った気がする)