司法書士は看護学生に翻弄される
鍵が壊されている。
無理やり侵入したのは間違いないのだけれど、こんなボロアパートに敢えて泥棒に入ろうなんて考える人はいないだろう。
林さんはドアの鍵を確認すると部屋に上がらせてもらってもいいかな?と訊いてきた。
「テーブルの上にメモが置いてあるね。必ず返すからって書いてある。という事は知り合いだね。恋人かな?」
部屋の中は引き出しが開けられ中の物が引っ張り出されている。台所のシンクの下など、現金を隠しているかもしれない場所はくまなく探した痕跡があった。
「……兄です」
優菜は小さな声でそう答えた。
知られたくなかったという思いでいっぱいだった。
渡せる限りの現金は兄と前回に会った時に渡していた。
部屋に置いていた5万円が無くなっている。優菜がお客さんからプレゼントされたアクセサリーなども置いてあったがそれもなくなっていた。
5万円は今月の家賃と生活費だった。
優菜は兄が仕事でお金に困っていることを説明した。ずっとお世話になっている小さな工場で今だけ何とかしのげれば潰れないからと必死なんだと言った。
「ちょっと理解に苦しむかな。君のお兄さんの借金ではなくて、工場の借金の肩代わりを、君のお兄さんがやっているというように聞こえた。連帯保証人かなんかになっちゃった感じかな?」
「連帯保証人になっているのかどうかは知りませんが、兄が自己破産してどうにかなる問題ではなくて、自分の働いている工場を潰したくないんだと思います。お世話になった社長さんが病気らしくて今は資金繰りが大変なのだとか」
林さんは深いため息をついた。
「君の為にお母さんが残してくれたお金までお兄さんは取って、失礼、借りていったんだよね」
「林さんがなんと言おうと、全て私が自分で決めてお金を渡しました。分かっての事です。警察に通報したら兄が捕まります。たとえ間違っている事だとしても私は通報なんてできません」