司法書士は看護学生に翻弄される
優菜の家から調味料や残り野菜など、冷蔵庫に入れておいたら腐りそうなものを林さんのマンションへ持ってきた。
「台所を使わせていただけたら夕飯を作ります」
優菜は林さんにそう聞いてから、残り物の具材を使い中華丼を作った。ワカメと油揚げの味噌汁に漬物を添えて林さんと共に夕飯を食べた。
中学生になってからずっと、働きに出ている母の代わりに、毎日食事を作るのは優菜の仕事だった。
一人暮らしするようになってからも、買ってきた惣菜や外食はお金がかかるので極力自炊することを心がけていた。
林さんのマンションの台所には見たこともないような高価な調理器具が揃っていて、台所の上の棚には外国製と思しきフードプロセッサーや電磁調理器など最新のものがたくさん使わずに置いてあった。
以前一緒に住んでいた女性が、調理器具が好きだったようで、たくさん買い揃えていたと林さんが教えてくれた。
「彼女は使ってみたい道具を揃えることは好きだったようだが、実際にその器具を使って料理を作ってくれたことはなかった」
苦笑いしながら、まあ今は女性が必ず料理をしなければならないって時代でもないから僕が使えればいいんだけどね。と恥ずかしそうに頭をかいた。
詳しく昔の彼女のことを聞きたかった。けれど林さんは自分のことはあまり話さなかった。
料理が上手だね、と褒めてくれて美味しそうに優菜の中華丼食べてくれた。
昨日も思ったけど、とてもきれいに食事をする人だなと感心しながら林さんの箸づかいをみていた。
「庶民的なものしか作れませんけど料理をするのはとても好きです」
残り物ばかりを利用した中華丼が少し恥ずかしかった。
「庶民的な味が一番食べたくなる。外食だとどうしても油物が多くなるからね」
微笑んで残さず食べてくれた。
ネットで調べれば外国料理や、食べたことのない高級料理のレシピもたくさん載っている。以前から作ってみたいと思っていた。
1人暮らしのあのアパートの台所は、コンロは一口だし、同時に何品か作るのは難しかった。林さんのマンションみたいな立派な台所が羨ましいと優菜は思った。
「よかったら宝の持ち腐れだから、使わないミキサーとか何かよくわからない道具、自由に使ってくれていいよ」
林さんはそう言ってくれたが、そんなに長くここには居られない。残念だけど、またの機会はないだろう。