司法書士は看護学生に翻弄される


「そろそろ12時になるから部屋に戻った方がいい……」

低く穏やかで優しい声が耳元でする。優菜は肩を揺すられて重たい瞼を開けた。

お風呂から上がってそのまま林さんのベッドで眠ってしまったようだ。
林さんはちゃんと家に帰ってきた。今夜彼女と泊まってこなかったんだと安心した。

顔を見るとほっとして涙が出てきた。
その様子を見た林さんは驚いた顔をして、髪を優しく撫でた。

「何があったか話してみる?」

と優菜に聞いてきた。

優菜は『いやいや』と無言で激しく頭を振った。こんな態度はまさに子供で、より一層自分が情けなくなった。

口を開けば全て林さんに引き出されてしまうので、黙ってただ俯く。

なかなかベッドを出て行こうとしない優菜。
林さんは頭を撫でる手を止めて。

「今夜はここで眠る?」

と聞いてきた。

目を見て『そうしたい』とはっきりと言うのが恥ずかしかったので、そのまま林さんの腰にしがみつき顔を埋めた。


「横で眠っていい?」

林さんはそうきくと、頷いた優菜の横に入ってきて、優しく抱きしめてくれた。

優菜は、林さんの鎖骨の部分にぺたりとくっついて、気付かれないようにそっと首元に唇を寄せたのだった。


夜中に一度目が覚めた。優菜を腕枕した状態で、林さんはぐっすり眠っていた。

彼の寝息を聞き、男性特有の喉仏が上下するのを見ていると、優菜はとても幸せな気持ちになった。

そしてまた首筋にそっとキスをするのだった。


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