司法書士は看護学生に翻弄される
その日から優菜は、林さんには決して気づかれないように、普段通りに生活することを心がけた。
そして4月から病院の寮に入りますと林さんに告げた。
「……そうか、寂しくなるね」
林さんはそう言うと、私の髪をくしゃっとした。まるで子供の頭を撫でるかのように。
林さん私は子供ではないです。もう立派な母親になるんです。心の中で優菜はつぶやいた。
ここを出ていく準備を進めていた。
持ってきたものはさほど多くなく、ここで住むために必要な布団やテーブル本棚なんかは全て林さんが買い揃えてくれたものだった。
林さんが気に入ってくれた味噌玉をたくさん作って冷凍庫に入れた。
私がいなくなっても、温かい味噌汁がいつでも飲めるように。
卒業して病院に就職できる見込みが無くなった今、看護学校の学費は全額支払わなければいけなかった。
兄の渡してくれた通帳には、林さんに借りたお金を返して、学校の学費を支払っても、出産をする費用は残るくらいの額が入っていた。
生活は当面の間は兄にお世話になることになるが、働けるようになったらすぐにでも看護師として職を探そう。
今までどんなに辛いことがあって、もうだめだと思った時でも、自分は何とか生き抜いてきた。
今度は母親として二人分しっかり生きていかなければならない。
ママは強いよ負けない。
まだ見ない赤ちゃん。私の赤ちゃん。あなたのおかげで元気100倍だわ。
久しぶりに嬉しい気分になってきて、優菜は笑った。
「……何かいいことあったの?」
気づかないうちに林さんが後ろにいたようだ。後ろから私を優しくハグした。
「いえ、別になにもないです。これから新しい人生が始まるなと思って、なんだか嬉しくなりました」
「羨ましいなあ。君は頼もしい。自分まで嬉しくなるよ、頑張って。苦しい時や辛い時は必ず相談に乗るし、力になるからここにきてね」
林さんは私の向きをくるりと変えると、唇にキスをした。