司法書士は看護学生に翻弄される


「うちの親戚が花火職人なんだけど夏祭りがなくなったから花火が大量に余ってるんだよね」

隣に座っている彼はなぜか急に花火の話しをしだした。
年齢は20代半ばだろうか世の中ではイケメンと言われる部類に入るだろう彼は、同じ教習所に通う女子学生たちによく話しかけられていた。

「……どこも人が集まるイベントは中止ですもんね」

世の中はコロナのせいで軒並みイベントは中止になっていた。

「一緒に打ち上げない?」

「はっ?……」

「花火一緒に打ち上げない?」

「夏祭りに上がるような打ち上げ花火の話をしてますよね」

「そうだよ。打ち上げ花火、結構でかいよ三尺玉」

「いやいや、それ規模が大きすぎますね」

「めったに経験できないと思うから誘ってみた。嫌ならいいけど」

優菜は思わず笑ってしまった。河川敷や砂浜で花火をしようと誘われるわけではなく、花火大会使用する大きな三尺だ。それを上げようと言われることは多分人生においてもないだろう。

「花火職人の方なんですか?花火興味がありますけど、今回は遠慮しときます。でも、誘っていただいてありがとうございます」

たぶん冗談なんだろうけど面白い誘い方だなと笑ってしまった。

「叔父が花火職人、俺はただの学生。誘い文句的にはかなりイケてると思ったんだけど振られたな」


「まあなんていうか、斬新な誘い方ですね」

ありがとうございます。でも私子供いますからと最初に釘を差しておいた。もう誘われはしないだろう。

「そうなんだ……あれ、俺より年下かなと思ったんだけど?」

彼は少し驚いたような表情をして、それでも話を続けた。

「そうですね多分年下です。21でもうすぐ22です。ついでに言うとシングルマザーで無職ですから」

「なるほど。それはまた苦労してる系女子だね」

と会話を続ける。
子持ちだと聞いて、あっさり引き下がるのも申し訳ないと思ったのかもしれない。

「まあそうかもしれないですけど、でもこれ以上、底はないなという経験したので後はもう浮上するだけです」


「幸せの数というのは皆平等で、つらかったことが多いずっと続く場合1度にどーんと大きな幸せがやってくる」

「……いいですねそれ」

「そうだね」

どこかで見たことがある芸能人よのうな笑顔だった。
私も看護師として働いていたら今頃こういう男の人にときめいたりしたのかなと思わず考えてしまった。

「ところで花火はどう?よかったらお子さんも一緒に」

優菜は、ふふふっと笑って首を横に振った
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