司法書士は看護学生に翻弄される


朝陽と一緒に事務所を出ると、偶然山本さんに出くわした。

「おお、久しぶりだね!」

山本さんは笑顔で私たちの所へやってきた。

「お久しぶりです。病院からの帰りですか?」

うん、そうだよと頷き、朝陽の頭を撫でた。

「朝陽くん、見ない間に大きくなったな」

朝陽の名前を憶えているなんて、すごい記憶力だ。毎日たくさんの患者さんに会わなければならないのに、一度名前を言っただけの朝陽を覚えるなんて流石医者だと感心した。

何処かに出かけていたのかという質問に、そこの事務所でパートしていると答えた。いつまでも無職のままでは生活できないからと答える。
シングルで子供がまだ小さいのに生活のために働かなければならないとか、苦労人っぷりアピールしてるみたいだなと我ながらキツイ。

「ま、俺も結構苦労して生きていたタイプだしな……割と極論だけど生きてさえいりゃ何とかなるよ。お互い頑張ろうな」

前向きなのか何なのか、とにかく励まされたのか。笑ってじゃあねと手を振った。

駐車場へ向かっていくと後ろから走って山本さんが戻ってきた。

「あのさ、俺夜勤続きで家に帰るの5日ぶりなのよ。土日は休み取れたから寝倒すつもりだったんだけど、良かったら日曜に動物園いかない?朝陽も連れて3人で」

「……」
急に誘われたので驚いた。動物園?それって朝陽目線の選択じゃない?

「お話し中すみません。なにかありました?」

林さんだった。事務所から出てきたみたいだった。山本さんは誰?というように怪しんで林さんを見ている。

「あ、あの私の職場の上司で司法書士の林さんです。こちらは教習所で知り合った友人の山本さんです」

急いで紹介した。

「医師の山本です」
そう言って山本さんは林さんに挨拶した。

なにその医者マウント…………
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