司法書士は看護学生に翻弄される
「お兄さんは元気にしている?」
林さんは兄の近況について訊いてきた。
「最近は会ってはいないんですが、仕事はずっと続けているようで、頑張っていると思います」
優菜は半分本当で半分は嘘をついた。
兄は真面目で働き者だ。小さなビニール製品の加工工場に勤めていた。専門は合羽製品。漁業用だとか水産合羽を専門に作っていた。
だけど業績が傾いて工場がつぶれるか否かという瀬戸際に立たされて、一年前に自分の貯金を出して何とか社長を助け会社を立て直そうとしたみたいだった。
その時金策に走り回っていた兄は私の貯金にも手を出した。
『必ず返すから。頼む』
そう泣きつかれて、母から相続したお金を全て兄に貸した。もちろん未だに返済はされていない。
自分の学費は看護師になったら返済すればいいのでかからない。生活費はアルバイトで何とか賄っている。贅沢はできないけど日々の暮らしはできているので大丈夫だ。
「二人きりの兄妹だもんね、仲よく頑張って」
林さんは笑顔でそう言ってくれた。
「はい!」
優菜は少しでも兄の力になりたかった。兄はギャンブルやお酒でお金を使っている訳ではない。
仕事で仕方なくお金が必要になっているだけだから、私ができることならなんだってやってあげたいと思っていた。