司法書士は看護学生に翻弄される


家に帰ってすぐにパソコンを立ち上げ、検索してたどり着いたのは優奈のチャンネルだった。
顔は出していないが声は彼女のものだった。料理を作る白く愛らしい手も間違いなく彼女だ。
細い指が野菜を刻んで見事に料理が生み出される。

干椎茸と豚肉、にんじんはごま油で炒めてから加え、干海老と干貝柱はそのまま入れて。乾物の出汁に酒、水、塩、醤油で味付けしながら水加減。あっという間に中華風おこわが出来上がった。

これは僕の夕飯だった。確かに食べた記憶がある。

少しでも彼女の顔が映像に出てこないか、くまなく確認するが彼女の姿は出てこなかった。

なぜ彼女の写真を撮らなかったのだろう。
たくさん一緒にいたのに思い出が1枚もない。
目頭が熱くなる。

会いたい。

動画がマンションの台所ではなくなり、彼女が引っ越しをしたという報告があった。

今彼女が調理をしている台所は昔ながらのもので、土鍋で米を炊いていた。それはそれでとても旨そうだが、手間がかかり彼女の細腕では大変だろうと思った。
たまに赤ん坊の鳴く声が入っていた。
動画の中で彼女は出産を報告しその日付は去年の6月23日。頭の中で計算する。いつだ、いつできた子供だ。

動画は……その時期、半年間配信されていなかった。再開して予定より2ヶ月早い出産だったことを知る。とてもハイリスクな命がけの出産だったようだ。その時そばにいてあげられなかった事が今更ながら悔やまれる。

40週(280日)を最終月経の開始日に足さなければならないらしいが、最終の月経開始日なんて知らない。
仮に8月23日が出産予定日だとすると行為をしたのは11月。タイミングは僕とともにマンションに住んでいた時期。



あのとき彼女は間違いなく初めてだった。


子供は僕の子だ。
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