司法書士は看護学生に翻弄される

中谷さんという、金にものをいわせる還暦近い太った常連さんがいた。会社の社長さんらしく、先輩に愛人契約を結ばないかと誘ってきたらしい。
自分が持っているマンションを与えて、週1~2日で10万。もちろん今までのように仕事は続けていいし、中谷さんが暇な日にそのマンションへ泊まりに来るだけだと言う。
部屋には他の男を上げない事と、愛人関係が終われば出ていく事が条件だ。

しかし同じお客さん、中谷さんから私は月30万でと誘われたことが伝わったのだ。彼女に嫌われた原因はそれだと思うと林さんに言った。

「もちろん私は断りました。そういう関係はいくらお金を貰っても嫌なので」

笑ってもらえると思ったのに、林さんは真剣な顔で「困ったね……」と言った。

「現実は生活していかなければならないわけで、断る事がそんな簡単ではないだろうけど。できれば自分の身体は大切にしてほしいな」

その通りで、現実は厳しい。お金がなければ家賃だって払えないし。

理想は身体でお金なんて稼ぐべきではない。もちろんそれに越したことはない。けれど人それぞれ事情がある。

自分もそういう行為が簡単にできれば楽だし、それで稼げればそれはとても魅力的だと思う。
でも今はまだ、そうしなくても何とかやっていけてるし大丈夫。

きれいごとばかりしか言わない人は、あまり好きではないけれど、林さんは貧乏人の気持ちも解ってくれそうな気がした。

月に30万も現金が手に入れば生活は一気に楽になるだろう。けれどあと半年だけ何とか持ちこたえればいいだけの話だ。苦しいのは今だけ。そう思って頑張ってきた。
< 8 / 70 >

この作品をシェア

pagetop