『ル・リアン』 ~新編集版~
 キーボーに会う前、最上の誘いを受けてニタス博士と食事を共にした。
 その時、アメリカ製薬の〈ある取り組み〉についての説明を聞いた。

「わたしたち製薬会社は新薬の有効性、安全性を確かめるために多くの動物に助けてもらっています。しかし、それは犠牲を強いていることでもあるのです。動物実験が必要不可欠とはいえ、痛ましいことに違いはありません。ですので、前臨床試験で命を落とした動物たちの霊を慰めるために敷地内に動物慰霊碑を建立しています。そして、毎年慰霊祭を執り行っているのです。更に」

 会社を上げて動物保護活動に力を入れていることを力説した。

「毎年1,000万ドル以上の寄付を行っています。寄付だけでなく、社員がボランティアとして活動することを奨励しています。世界各国の動物保護団体と協力して絶滅の危機に瀕している動物たちの保護に取り組んでいるのです」

 その言葉には、NME開発に貢献してくれたマウスやラット、チンパンジーに対する感謝の思いが溢れていた。
 しかし、それだけではなかった。
 博士は優しさに満ちた表情になって言葉を継いだ。

「須尚さんのご友人の難聴は耳への過度な負荷によるものだと思います。先ずは耳を休ませてあげることが重要ではないでしょうか」

 その通りだと思ったので即座に頷いた。

 博士も頷き返したが、唐突に「わたしたちの活動の一つとして、アメリカ東海岸でのプラスチックごみ収集活動があります」と、プラスチックごみが与える海洋への影響を説明し始めた。

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