『ル・リアン』 ~絆、それは奇跡を生み出す力!~  【新編集版】
          少女からの手紙 

 難聴救済ミュージックエイド・KIZUNA運営委員会の元に1通の手紙が届いた。
 今も内戦が続く貧しい国の14歳の少女からだった。

『わたしの国は民族間の争いから内戦が始まりましたが、天然資源の争奪という新たな争いが加わって、泥沼のような状態になっています。
 わたしは内戦が始まってから学校に行くことができなくなりました。わたしだけではありません。友達も同じです。誰も学校に行っていません。学校が爆破されたからです。先生や多くの友達が巻き添えになりました。思い出すたびに涙が出ます。
 わたしは両親と兄の4人で暮らしていました。しかし、ある日突然、父と兄が徴兵され、戦闘員として戦場に送り込まれました。父は砲撃隊員で、兄は歩兵でした。
 父は戦場で毎日大砲を撃っていました。爆音の中で撃ち続けていました。そのせいか、耳がほとんど聞こえない状態になってしまいました。戦場でのコミュニケーションが取れなくなった父は家に送り返されました。
 わたしは喜びました。また父と生活することができると。しかし、父は別人になっていました。無表情で何も喋らないのです。笑うこともありません。戦場での過酷で悲惨な体験が父の心を壊したのです。それだけではありません。父はいつも寝ていました。動こうとはしませんでした。家には食べるものがほとんどなかったからです。無表情でやせ細っていく父の姿を見るのが耐えられませんでした。
 ある夜、脱走して家に戻ってきた兄がわたしたちを迎えに来ました。今すぐ難民キャンプに行くというのです。わたしたちは戦火の中を命からがら逃げていきました。そして、難民キャンプへ辿り着きました。しかし、そこも最悪の状態でした。人が生活できる環境ではありませんでした。食べ物はほとんどなく、汚水とゴミの中での生活だったのです。地獄から抜け出して辿り着いた先はまたしても地獄でした。落ち込みました。この世に神様はいないと思いました。希望が消えて絶望に支配されました。
 そんな時でした、難民キャンプを巡回している医師から父が診察を受けたのは。その医師は小さな機械で父の耳の状態を調べていました。
 診察が終わるとこう言いました。「聞こえるようになるかもしれないよ」と。医師は父に小さな補聴器を装着しました。そしてわたしに向かって「大きな声で話しかけてごらん」と言いました。わたしは大きな声で父の名前を呼びました。でも反応はありませんでした。がっかりしていると、医師が何やら器具のようなものを取り出して、補聴器のどこかに手を加えていました。
 傍で見ていると、もう一度父の耳に装着して、「もっと大きな声で呼びかけてごらん」と言いました。わたしはさっきよりももっと大きな声で呼びました。何度も呼びかけました。すると父の顔色が変わりました。そして笑ったのです。「聞こえた」と父が言いました。奇跡が起こったのです。わたしは神様に謝りました。「ごめんなさい」と。そして「ありがとうございます」と胸に手を置きました。
 医師から薬を渡され、その場で飲むように指示されました。父が飲み終わると、「2年後には普通に聞こえるようになるかも知れないよ。それを信じて毎日飲み続けなさい」と夢のような励ましの言葉をかけてくれました。
 診察を終えた医師は、「この薬は日本とアメリカの製薬会社が協力して開発した難聴治療薬なんだよ。補聴器と診断機器は日本のベンチャー企業が開発したんだよ。そして、それらを開発した会社と音楽関係者が難聴患者を助けるために協力してくれているんだよ。それぞれの会社からの寄付金とチャリティーコンサートの収益金で、薬や補聴器や診断機器を購入して無償提供してくれているんだよ」と教えてくれました。そして、「毎日が辛くて大変だと思うけど、絶対諦めてはいけないよ。諦めさえしなければ、必ず良いことがあるからね。君は一人ではない。世界中の多くの人と繋がっているんだよ」と言って、わたしの掌にKIZUNAと指で書いてくれました。わたしはその言葉を何度も口に出して練習しました。絶対忘れないように練習しました。
 わたしは信じます。皆様とのKIZUNAを。辛くて死にそうになったらこの言葉を口に出して、絶望という死神と戦います。父に、わたしに、そして家族に希望の光を届けていただいた皆様のことを一生忘れません。ありがとうございました』

 最後の1行に2つの言葉が書かれていた。

 一つは、KIZUNA。

 もう一つは、le(ル) lien(リアン)。

 それは、フランス語で、絆。
 

                                         
                                       



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