ツカノマ・サマー
「いや、ちょっと待って。これには深いわけが……」
と、私は慌ててキッチンのほうへ後ずさった。
その時。
足元を見ていなかったせいで、床に置きっぱなしのショッキングピンク色のエコバッグに足を滑らせた。
「わっ!」
ゆっくり、天地がひっくり返る。
「危ない! すみれちゃん!!」
どうしてなんだろう?
転ぶ時って、目の前の世界がスローモーションになる。
私の体を庇うようにして、真夏くんが頭に手を添えて抱きしめるみたいに守ってくれた。
一瞬の出来事だけど、胸の奥がキュンって鳴ったみたいな感覚。
散らばるアイスの水滴。
空中に舞うエコバッグ。
ハレーションを起こす、私のネイル。
世界がスローモーションの時間は終わり、代わりにドンッと床に倒れた。
ぎゅっと抱きしめられているみたいで、心臓が騒ぎ出す。
「大丈夫!? どっか痛い!?」
と、真夏くんが私の顔を見る。
「大丈夫」