ツカノマ・サマー

駅前のサンドイッチ屋さんに入った。

ランチに野菜サンドを食べつつ、真夏くんのことを考える。



初めて恋心を自覚した時、私は小学四年生だった。

こんなふうによく晴れた、夏の日だった。



真夏くんと小春と私の三人で、電車で二駅の図書館へ行った。

正確には、真夏くんに連れて行ってもらった。



図書館で小春は絵本に夢中で。

私は児童書の本棚の前でウロウロしていた。

ふと、本棚の上のほうに背表紙がキラキラ光っている本を見つけた。

背伸びしても取ることが出来なくて。

だけど、どうしてもその本を諦められず。

手を伸ばし続けていた時だった。



『この本?』



背後から真夏くんの声がした。

背中のすぐ後ろで、真夏くんが立っていて。

軽々と目的の本を取ってくれる。



『はい』



取ってくれた本を手にして、ありがとうを言ったかどうか、もう忘れてしまった。

ドキドキして。

それまでの人生の中で一番の鼓動の速さだと思った。
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