ツカノマ・サマー

カチャカチャと小さな音だけが部屋の中に響く。

真夏くんの背中を眺めつつ、
(本当に聞かなかったことにしてくれているんだな)
と、ありがたく思った。



私のことを気遣ってくれているんだよね。

そう思うと、じんわり心に沁みた。



気づくと。

私は真夏くんを、後ろから抱きしめていた。



「すみれちゃん?」



真夏くんが戸惑っているのはわかったけれど。

抱きしめていると、さっきまでざわざわと不安だらけだった心が落ち着いた。

私の体に、真夏くんの鼓動の音が響いてくる。



「……真夏くん、もう少しこのままでいてもいい?」



嫌だって言われたらどうしよう。

普段だったらそう言われないように気をつけて話すのに。



(弱っているのかな)



どうしようか考えていたのか、しばらく黙ったあと、
「……いいよ」
と、真夏くんが言った。



(いいの?)



思わぬ返答に、こっちが驚いていると、真夏くんはお湯を沸かしていた火を止めて、
「すみれちゃんのほうを向いてもいい?」
と、聞いてきた。
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