ツカノマ・サマー
ベランダに出たら、ぐーっと伸びをした。
「んーっ!」
と、自然に声が出る。
都内とはいえ、ここは下町情緒あふれる町で。
私が住んでいる場所より、のんびりとした時間が流れている気がした。
(いいな)
真夏くんに、とてもよく似合う気がして。
この町を好きになる予感しかしない。
「んー」
横を見ると、いつの間にか真夏くんも伸びていた。
嬉しくなって、また伸びてみる。
「近所のお肉屋さんに、すっごく美味しいコロッケがあるんだよ。結構安い値段なのに、本当にすごく美味しい」
「何それ! かなり食べたい!」
「今日の夜、食べる?」
うん、うん、と頷いていると。
ピンポーン。
インターホンのベルが鳴った。
私はほんの少し慌てて、
「あきらだっ」
と、真夏くんの背中に隠れた。
「すみれちゃん、どこに居る? あきらがそこに行かないようにする」
私が「トイレ……、とか?」と言っている内に、部屋の玄関ドアからコンコンとノック音がしてきた。