ツカノマ・サマー

弱音と月夜


電話に出ると、福田さんがまずこう言った。



『すみれ!? 無事なの!?』



申し訳なさで。

目頭がジンジンしてくる。



「福田さん、ごめんなさい……」

『元気でいるのね? 大丈夫なのよね?』

「はい」



福田さんが電話越しにホッとしたことが伝わる。



『すみれ、あなたは今、どこにいるの? あのSNSに書かれていたことは本当なの?』

「……福田さん、お願いです。あと一日だけで良いんです、明後日の取材には絶対に帰りますから」



福田さんは深くため息を吐いた。

それはあきらかに“呆れた”というため息だった。



『すみれ、あなたがしていることはとんでもない裏切りよ』

「……」

『仕事はね、信頼が何より大事だって私は思うのよ。技術があっても、自信があっても、信頼のない人間とは仕事なんか出来ない』

「はい」



少しの沈黙のあと、
『でもあなた、何か目的があるんでしょう?』
と、福田さんが言った。
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