子犬系男子は待てを知らない
……一言も発せなかった。
普段のあたしだったらここで絶対に言い返してたはずなのに。
桃園さんが言ったこと、その通りなんだもん。
自分の気持ちに気づいておきながら、勝手な理由でこの想いを胸に留めておこうとしている。
あれだけまっすぐに伝えてくれる雪平くんの想いに、あたしはなんにも応えられていないんだ。
「そういうことだから。正々堂々と闘いましょう、藍原さん?」
困ったことになってしまった……。
凛として歩いていくその後ろ姿を、あたしはただ眺めているしかできなくて。
「可愛い顔して、宣戦布告してきたわね」
現実に戻ったのは、そんな一言の後。
「侮れないわよ、あの子」
「愛花ぁ〜〜っ」
あたしと桃園さんの会話をこっそり全部聞いていたらしい彼女に、思わず泣きついた。