子犬系男子は待てを知らない
「ねぇ、お願い。璃子〜」
パチンと手を合わせた愛花に懇願され、不覚にも心が揺れた。
……はぁ。
今日拒否したって、また明日も追及されるのが目に見えてる。
あまり言いたくはないけど、ここまで何度も訊かれたらしょうがないか。
「……絶対笑わないでね」
あたしはふぅ、と息をついてから渋々重たい口を開くことにした。
そう──あたしが雪平くんと出会ったのは……。
「たしか、3月の半ばくらいだったんだけど──」
◇
『う〜っ、さっむ』
それは、美容院に行った帰り道のことだった。
──ビュゥッ。
『うわっ!』
突然吹いた風によってボサボサになった横髪に、どこかへ行ってしまった前髪。
もーやだ、最悪。
折角早起きしてかわいくしてもらったのにぃ!
『んもぅ、風のバカー!』
声を荒らげながら顔面にへばりついた髪を直していると──。