子犬系男子は待てを知らない
「それより申し遅れました。僕は、丹羽 玖音です」
どこからか滲み出る育ちの良さそうな所作に、落ち着いた品のある声。
彫刻と見紛うほど整った顔をしている彼は、あたしたちの二つ年上みたい。
「桃園さんもごめんね。口出しちゃって」
さっきからむこうを向いたまま一言も喋らない彼女。
丹羽さんに簡単な自己紹介を済ませてからおそるおそる声をかけると、目だけがチラッとこっちを見た。
「いーのよ、藍原さん。困ってたのは本当だもの」
「美織!」
「なによ。私は玖音との結婚、断じて認めてないんだから」
むすっとした顔で言った桃園さんに、あたしの心臓はドキリと跳ねた。
……な、なんか、ものすごい場面に出くわしてしまったのかもしれない。
「言ったはずよ。私は諒一筋だって」
どきっ。
あ……あたしそういえば、あのことまだ桃園さんに話してない。
桃園さんの一声に大事なことを思い出したあたしは、更に心臓を鳴らす。