子犬系男子は待てを知らない


「二人とも、今日は来てくれてありがとう」


心の中でそわそわ独り言を呟いていると、さっきまでだんまりだった遥斗の口が動いた。


真っ直ぐな目がこちらを向く。


「……ううん。そんなかしこまんないでよ」

「えっと……俺はただの付き添いなので、全然。お気遣いなく」

「いやでもダメ元だったから……本当に感謝してるんだ」


あたしと雪平くんを交互に見たその人は、深く頭を下げて確かめるように言った。


そして、


「璃子……あの時は悪かった」

「……っ」


次の瞬間勢いよく放たれたそれに、あたしは思わず目を見張って固まってしまった。


「俺、本当に悪気はなくて。でも、言い訳はもうしない。傷つけてごめん」


それは、この前の時とは全く違う、ずっしりとした声だった。


正直びっくりした。

遥斗の口からそんな言葉が出てくるなんて、想像してなかったから。


「遥斗……」


机の上で握りしめられた拳は、少し震えているように見えて。

捉えた瞬間、瞬く間にあたしの中で何かが生まれ、駆け巡った。

不安とか、恐怖とか、そういう気持ちがすぅっと抜けていく。


「いいのよ、もう。あたしはこれっきり忘れる。だから遥斗も、これからは気にしないで」


今朝までの感情が嘘みたいに。

いつしか、心からの笑顔を浮かべてた。

< 263 / 352 >

この作品をシェア

pagetop