子犬系男子は待てを知らない
「二人とも、今日は来てくれてありがとう」
心の中でそわそわ独り言を呟いていると、さっきまでだんまりだった遥斗の口が動いた。
真っ直ぐな目がこちらを向く。
「……ううん。そんなかしこまんないでよ」
「えっと……俺はただの付き添いなので、全然。お気遣いなく」
「いやでもダメ元だったから……本当に感謝してるんだ」
あたしと雪平くんを交互に見たその人は、深く頭を下げて確かめるように言った。
そして、
「璃子……あの時は悪かった」
「……っ」
次の瞬間勢いよく放たれたそれに、あたしは思わず目を見張って固まってしまった。
「俺、本当に悪気はなくて。でも、言い訳はもうしない。傷つけてごめん」
それは、この前の時とは全く違う、ずっしりとした声だった。
正直びっくりした。
遥斗の口からそんな言葉が出てくるなんて、想像してなかったから。
「遥斗……」
机の上で握りしめられた拳は、少し震えているように見えて。
捉えた瞬間、瞬く間にあたしの中で何かが生まれ、駆け巡った。
不安とか、恐怖とか、そういう気持ちがすぅっと抜けていく。
「いいのよ、もう。あたしはこれっきり忘れる。だから遥斗も、これからは気にしないで」
今朝までの感情が嘘みたいに。
いつしか、心からの笑顔を浮かべてた。