子犬系男子は待てを知らない
いや……あれしか思いつかない。
焦りを覚えたあたしは慌てて阻止しようと身を乗り出したが、アイツは口を動かすのを止めなくて。
「中1ん時の授業中、璃子のやつ居眠りしててさ。それが先生にバレて席まで起こされに来たの。そしたらいきなり『ゆで卵は半熟派!』て叫びながらガバッと起きて、コイツの頭が先生の顎に見事クリーンヒット。もうみんな大爆笑だったなー」
「あ、あれはだから、お昼休みに友達と論争してて……んもう! 忘れてよ〜」
うぅ……恥ずかしすぎる……。
あたしの黒歴史、雪平くんに知られちゃうなんて。
「あん時は俺も一緒に謝りにいってやったっけ。佐藤の顔、怖かったな〜。くっくっくっ」
「ほんと、殺されるかと思ったわよ」
暫く授業中は寝ないと誓ったあの事件。
笑い話にできてるだけまだいいのかもだけど、それでもやっぱりみんなの記憶から抹消できるものなら抹消したい、苦い過去だ。
「……へぇ。璃子ちゃん昔からそんな感じなんだ」
「ああ。コイツといたらマジ飽きないだろ? まだ伝説あるけど聞きたい?」
「遥斗、もういいって! 変な話は聞かなくていいからね、雪平くん」
「うん……」
「……雪平くん?」