子犬系男子は待てを知らない
「今日はありがとうね」
休日を使ってあたしの用に付き合ってくれたんだ。
雪平くんには感謝してもしきれない。
結果、あんなやつのために貴重な時間を奪うことになっちゃったけど。
……って、あーやだやだ、思い出すだけでまた腹が立つ。
「……添田さんと、なにかあったの?」
「えっ?」
ぶんぶんと首を振り靄を消し去ろうとする最中、聞こえてきたのは呟くようなそんな声だった。
ドクンと鈍い音を立てて騒ぎ出した心臓。
慌ててそれを隠すように笑みを貼り付ける。
「ま、まあ……でも、大したことないし、雪平くんには関係ないことだから。気にしないでね」
あんなおぞましいこともう考えたくもないし。
なにより雪平くんに心配かけたくない。
必殺パンチを炸裂させておいたから、きっと遥斗ももう連絡してこないはず。
だから、大丈夫。
「それよりさ。ちょっと時間もあるし、これからお礼にどこか──」
「ごめん」
遮られて、え、となった。
「雪平くん……?」
〝どうしたの〟
言おうとしたその時、先に落とされた声によって再びあたしの声はかき消されてしまった。