子犬系男子は待てを知らない


ドクドクと鼓動が大きく全身に響いてる。

込み上げてくる得体の知れない感情に、あたしは堪らず唇を噛みしめた。


……そっか。

だから機嫌良くなかったんだ。

だから、元気なさそうに見えたんだ。

なんか、そう思ったら。


「可愛い」

「可愛くない」


拗ねてる?

ムスッと、子どもみたいな顔してる。


「んふふ」


雪平くんってこんな顔するんだ。

新発見。

なんて、雪平くんには悪いけどニヤける頬は抑えられない。


だってこの顔は、あたしだけが見られる顔なんだもん。



「でも、あたしはあいつのことなんとも思ってないから」

「わかってる。だけど、俺の知らない璃子ちゃんのことたくさん知ってるし、璃子ちゃんもなんか俺といる時より自然体に見えるし。一番に、なま──」


……なま?

急に引っ込められた言葉に瞬きをするあたし。


どうやら、予定外のことだったのだろう。

雪平くんの方を見ると、〝最悪〟と言うが如く表情を歪めている。


かと思えば、すぐにはあぁ〜〜、と深いため息をついた。

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