子犬系男子は待てを知らない


……そんな顔、初めて見た。

いつもの優しさはもちろん残ったままだけど、なんだろう。


きりりと引き上がった眉が、真っ直ぐなその瞳が、

あたしの心を離さない。



「俺、本気だから」

「……っ」

「今は無理でも、璃子ちゃんの気持ちを変えられるように俺が頑張ればいいってだけの話でしょ?」



ずるい。

ずるいよ、雪平くん。


あたしはコクンと頷くだけで、何も言い返せなかった。

言い返せないまま、気づけば駅の目の前まで来ていた──。



「璃子ちゃんあっち?」

「うん」

「残念。じゃあここでバイバイか」


そっか。雪平くん、逆方面なんだ。


「じゃあね、璃子ちゃん」

「うん。また明日」


あたしたちはお互いに手を振りあって、それぞれのホームへと向かう階段へと別れた。

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