子犬系男子は待てを知らない
「うん」
「なにか……聞いてないか?」
なにか?
密やかに言った彼に、あたしは露骨に疑問符を浮かべた。
「そうか。藍原も知らねえ、か」
「え、なに? どういうこと?」
わからない。
山岡くんは一体何を……。
「俺の気のせいだったらいいんだが、あいつ……たまに一人でぼーっとして、物思いに耽ってるような時があるんだ。それが少し……な」
「え?」
雪平くんが………?
いっつもにこにこしてて、爽やかで、明るくて。
そんな彼が────。
いや。
たしかそう。
あの日──橋の上で見た雪平くんも、どこか寂しそうで儚げな顔をしてた気が……。
や、でもあれはただの花粉症だったし……。
う〜ん。と首を捻ったその時。
「だからその……。俺がいない時、気にかけてやってほしい」
大混乱の頭の中は、山岡くんの低音で全て埋められてしまった。