イケメンモテ王子×真面目委員長+家事男子×ズボラ女子=溺愛~正反対なふたりに「きゅん」が成立することを証明してください~
第3話 心配なんだ
〇百合寿と壱が住むマンション(朝)
――学校ではしっかり者だと言われている私だけど、本当は違う。
学校で無気力な王子様と呼ばれている幼なじみに、お世話してもらっている――
ダイニングキッチンの椅子に座り、壱が作ったサンドイッチを食べながらウトウトしている百合寿。
そのうしろに立って、壱が百合寿の髪を三つ編みにしている。
壱「百合寿、校ボラ部の部長との勉強、家でしようって言われても行くなよ」
百合寿「うん……(モグモグ)」
チラ、と壱が時計を見る。時刻は7時5分。
壱「そろそろ出た方がいいんじゃないか、今日は早く行くって言ってただろ?」
百合寿「そうだった」
パチ、と百合寿の目が覚める。
〇通学路
自転車を走らせている百合寿。
『節約のため自転車通学』の文字。
壱は部活に入っていないため、ギリギリまで家事をしている。
トマトと片手鍋を手にした壱の絵と、『その頃の壱は夕飯の下ごしらえ中』の文字。
〇高校の自転車置き場
百合寿は自転車を駐輪場においている時、自転車でやってきた隣の席の藤海斗に声をかけられた。
海斗「綿貫じゃん、早いな」
百合寿「部活の当番なの。花壇の水やり」
海斗「ああ校ボラ部のか。昨日何か植えてるの見た」
百合寿「藤くんは?」
海斗は自転車をおりながら答える。
海斗「やっとプールに入れるようになったから朝練。でもすぐテスト前で部活休みなんだよなー。もっと泳ぎてー」
百合寿「泳ぐの好きなんだね、私は泳げないから羨ましい」
ふふ、と笑う百合寿の表情に、ドキ、と小さく海斗の胸がときめく。
少し顔を赤らめ視線を逸らした海斗は、百合寿のリュックについたキーホルダーに気付いた。
海斗「あ、そのキャラクター」
百合寿「知ってるの?」
海斗「ああ、妹が好きだから。けっこう人気あるよな」
百合の花を持ったリスのキャラクター『ゆりす』のキーホルダー。
百合寿はそのキーホルダーを外し、海斗に差し出した。
百合寿「これ妹さんにあげて。眼鏡をかけてるのはレアものだからきっと喜ぶと思う」
海斗「ぇ、悪いよ」
百合寿「私、同じのあとふたつ持ってるの」
海斗「そういうことなら……サンキュ」
――壱くんパパが社長の大手デザイン制作会社は、企業ロゴの作成やイベント会場のトータルデザインの他にキャラクターデザインも扱っている。
『ゆりす』は壱くんがデザインして人気が出たキャラクターだ。
布教用として持っていたのが役に立ってよかった――
百合寿と海斗がいる所へ同じクラスで水泳部の林堂なずなが自転車で到着した。
なずな「おはよ、藤。綿貫さんも、おはよ。ふたりでいるなんて珍しいね」
意外そうに目を大きくしながら話しかけてきたショートヘアで活発そうな雰囲気のなずな。
海斗「ちょうど会ったんだよ。な、綿貫」
百合寿「う、うん……」
その頃の壱はバスに乗り、立ちながら眠そうな表情。
一緒に乗っている女子高生たちから壱に向けてハートマークが飛んでいるが壱は我関せず。
壱(眠……)
○校庭の端の方(放課後)
ジャージを着て両手に軍手をした百合寿は、黙々と草をむしっている。
『本日の校ボラ部(校内ボランティア部)の活動は、学校の草むしり』の文字。
百合寿に近付いてくる部長の竹志。
ビクッと百合寿が驚くほどの近さで隣にしゃがみ込んだ。
竹志「すごいね綿貫さん。もうこんなに終わったんだ」
百合寿「あ……」
集中していて気付かなかったが、百合寿のそばには自分でも驚くほどの草の山ができていた。
竹志「一緒に勉強する話だけど、いつがいいかな?」
百合寿「えっと……いつでも大丈夫です」
竹志「それじゃ部活が休みになる来週の金曜日とかどう? ちょうど一週間後」
百合寿「わかりました」
竹志がニコ、と笑う。
竹志「それじゃその日は一緒に帰ろ。場所はうちでいいよね」
百合寿「えっと……」
脳内に『勉強、家でしようって言われても行くなよ』と話す壱の姿が浮かぶ百合寿。
百合寿「家じゃなくて、学校の図書室にしませんか」
百合寿の提案に一瞬だけ、ム、と僅かに不機嫌な表情を浮かべる竹志。
でもすぐに、ニコ、と微笑んだ。
竹志「テスト前って図書室の席がすぐに埋まっちゃうんだよね、難しいと思う」
百合寿「そうですか、それならファミレスとかどうでしょう」
再び百合寿の脳内に『図書室がダメだったら周りに人がいる場所にしな、ファミレスとか』とアドバイスする壱の姿が浮かぶ。
ヒク、と少しだけ頬をひきつらせた竹志。
竹志「ファミレスだと集中できないかも。そうだ、隣駅にあるリニューアルしたばかりの図書館はどう?」
百合寿「いいですね。行った事ないので行ってみたいです」
ぱぁあああッと明るくなる百合寿の表情。
『本大好き』の文字。
○百合寿と壱が住むマンション
壱は包丁でジャガイモの皮をむきながら考え事をしている。
「テスト勉強は他の人と一緒にしようと思ってる」と第2話で告げた時の百合寿の顔が頭に浮かぶ壱。
壱「ッ!」
つるッと手が滑って指を少し切る。
○モノローグ(壱の視点)
――八歳下の弟がいる俺は、両親の愛情が手のかかる小さな弟にばかり向いているのが許せなくて、十歳の頃はよく泣いたりわがままを言い両親の気をひこうとしていた。
でも、百合寿の父親が亡くなって――
小四の時の百合寿「大丈夫だよお母さん、これからは私が守るから」
遺影を前に泣き崩れる百合寿の母の背中に手を添え、百合寿が慰めていた。
涙を見せない百合寿の姿に、周りの大人たちは「しっかりした子ねぇ……」と呟いている。
それを少し離れたところから見つめる壱。
小四の時の壱(それじゃ百合寿の事は誰が守るんだよ……)
シーンが変わって塾の帰り道。
傘をさして塾のリュックを背負いひとりで帰る百合寿に壱が声をかける。
小四の時の壱「百合寿、塾やめるんだって?」
小四の時の百合寿「うん、塾代高いし。お母さんの負担を減らさないと」
小四の時の壱「そっか……」
駅の改札のところで、足を止めた百合寿。それに気付き、百合寿の視線の先をたどっていく壱。
百合寿が見つめていたのは、会社帰りの父親を傘を持って迎えに来た幸せそうな家族の姿だった。
目を潤ませる百合寿の手を、ギュッと壱が握る。
小四の時の壱「塾の代わりに俺が勉強教える」
小四の時の百合寿「壱くんが……?」
何かを決意したように、頷く壱。
小四の時の壱「父親の代わりにはなれないけど、これからは俺が百合寿を守るよ。だから俺の前では泣いていい」
一瞬驚いた表情をする百合寿だったが、みるみるうちに瞳を潤ませ大粒の涙を零す。
――それから俺は、親にわがままを言う事は無くなった。百合寿を守れるようになるために、そんな事をしている時間はもったいなかったから――
勉強と運動をして努力する壱の姿、「クッキー焼いてみた」とエプロン姿で差し出す壱とクッキーに目を輝かせて喜ぶ百合寿の絵。
――中学生になって父親の会社の仕事を手伝わせてもらい『ゆりす』をデザインしたのだって、百合寿に喜んでほしかったからだ。百合寿は家族同然で、妹みたいな存在――
モノローグ終了して「大切だから、心配なんだよなぁ……」と小さくため息をつきながら呟く壱。
○百合寿と壱が住むマンション
二人掛けのダイニングテーブルで夕食を食べる百合寿と壱。
本日のメニューは鶏肉と野菜のグリルに壱特製のトマトソースを添えたもの。
「おいしー」と百合寿は目をキラキラ潤ませながら感動している。
そんな百合寿を、チラ、と見た壱は、何か言葉を発しようとして飲み込む。
でも再び意を決して壱は百合寿へ話しかけた。
壱「テスト勉強する場所……相手は何か言ってた? 家で勉強しよう、とか」
百合寿「うん、家でって話も出たけど、最終的に図書館で勉強する事になったよ」
壱「そっか、図書館か」
壱はホッと小さく安堵の息を吐きながら、(家でって、誘ったのかよ校ボラ部の部長……)と考えている。
百合寿「高校の隣の駅にあるリニューアルしたばかりの図書館に行くの。蔵書がかなり多いみたいで楽しみ」
壱「隣の駅にあるリニューアルした図書館……?」
怪訝そうな表情になる壱。
壱(その図書館って、確か……)
第1話で下校時に「一緒に行こーよー」と壱へ話しかけてきた鈴宮蘭花を思い出す壱。
壱「その図書館はダメだ。行かないで」
百合寿「ぁ、本は楽しみだけど、もちろん勉強もがんばるよ」
壱「あー、口で説明してもうまく伝わらないかも」
百合寿「壱くん……?」
なぜ反対されたのか分からず、口の端にトマトソースをつけた百合寿は首を傾げてキョトン顔。
「トマトソースついてるぞ」と言いながら手を伸ばし百合寿の顎をクイッと上げて、親指でソースを拭う壱。
壱「明日一緒に行こ、ふたりで。どうしてダメか教える」
百合寿に顎クイをしたまま、壱はそう告げた。