恋の微熱に溺れて…
「それじゃ、今日は帰らずに、一晩一緒に京香さんと過ごしたいです」

全く思ってもみなかった方向性に驚きつつ、なんて可愛い要求なんだろうと思った。

「いいよ。それでよければ...」

これでお礼になるのであれば、こちらとしては助かる。少し申し訳ない気持ちもあるが。

「俺、嬉しいです。京香さんと一緒に居られて...」

まるで恋人にでも囁くような言葉を言われ、ドキドキした。
慧くんにこんなことを言われたら、勘違いしちゃう人が続出するに違いない。わざとなのか分からないが、これは勘違いしなくてよかったと、自分を言い聞かせた。

「京香さん、俺...」

なんてことを思った矢先に、意味深な間を慧くんが作った。
それに伴い、一気に緊張感が増した。

「慧くん、どうしたの?」

今から何を言うの?ドキドキでもう何も考えられないよ...。
これ以上、甘い言葉を聞きたくない。言わないで。精一杯の理性で、なんとか勘違いしないように、気持ちを抑えている。
こんな状態で、甘い言葉をずっと囁かれたら、勘違いしない方が難しい。だからそうなる前に、もう何も言わないで…。
その先の言葉を聞きたくないと思いつつ、でも好きな人の言葉だから知りたいという二律背反の気持ちが交錯していた。
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