恋の微熱に溺れて…
声について褒められたのは初めてだ。決して良い声というわけではない。至って普通の声だと思う。
ただ人それぞれ好みが違うわけで。慧くんにとって、私の声は良い声ということなのであろう。
私も慧くんの声が好きだ。好きな人の声ということもあるが、慧くんの声は落ち着いていて。優しい音色で。聞いていて耳心地が良い。
慧くんの声を聞いていると、耳も心も癒される。いつまでも聞いていたいと思うほどに…。

「私も慧くんの声を聞いてると、心が落ち着くの」

好きな人の声というだけで意味が増し、特別になる。
私も慧くんにとって、そういう存在でありたい。そうであってほしいと願う。

「本当ですか?京香さんの癒しになれて嬉しいです」

言葉だけじゃなく、行動でも嬉しさを表現したかったのか、更に距離を縮めてきた。
裸で至近距離は目のやり場に困る。鍛えているのか、整った身体をしている。手を伸ばし、触れてみたいと思うほど、良い身体が目の前にある。
こんなに色気のある身体に抱かれていたのかと思うと、急に身体が火照ってきた。
今からもしかしたらここで…。さすがにそれは気が引けるが、つい脳内で想像してしまう。
慧くんには悟られないように、表面上は平静を保っているフリをした。

「いつも癒してくれてありがとう」

感謝の気持ちを持っていることは本当だが、不埒なことを考えていたことを誤魔化すために、平静なフリを保った。
今のところバレていない気がする。バレていないことを信じて、普通に会話を続けた。

「こちらこそ、いつも癒しをありがとうございます」
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