恋の微熱に溺れて…


           *


部屋に戻り、朝食を済ませた途端、もう現実に帰らなくてはならないのかと思うと、急に寂しさが込み上げてきた。

「明日から仕事ですね…」

仕事という現実からは、ずっと現実逃避していたい。仕事をしないとお金は稼げないが、時々ズル休みをしたいと考えてしまう。
実際、ズル休みはできないので、ちゃんと出勤するが…。たまにこういったことを考えては、現実の世知辛さから目を瞑っている。

「仕事か。明日がこなければいいのに…」

ふと思わず、心の声が漏れた。言ったところでどうにもならないが、言わずにはいられないくらい、この時間が終わるのが寂しかった。

「俺も同じことを思いました。この時間が永遠に続けばいいのに…って」

永遠はない。時間には必ず制限がある。制限があるからこそ、もっと楽しい時間が続けばいいのに…と思うのかもしれない。

「永遠はないけど、またこうして旅行に行きたいね」

“また“を作ればいい。そうすれば、こうして一緒に過ごせるのだから。
現実なんて、次のお楽しみに向けて頑張ればいい。そのために働いているのだから。

「そうですね。今も大切ですけど、次に向けて気持ちを切り替えるのも大切ですね」

私達の関係にも永遠なんてない。終わりがないと信じたいが、そればかりは分からない。
それでも私達は永遠を信じている。だから次に向けて、今は期待に胸を膨らませているのであった。

「そうだね。気持ちを切り替えて、明日から仕事を頑張りますか」

名残惜しい。もっとこの時間が続いてほしい。本当は心の中でずっとそう思っていた。
そう思えばそう思うほど、もっと慧くんと一緒に居たいと強く願うようになった。
そんな想いを胸に抱きつつ、残りの時間を思いっきり楽しんだ。とても良い旅行になった。
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