恋の微熱に溺れて…
「分かった。それじゃ遠慮なく飲ませてもらうね」

きっと慧くんは私に遠慮されるよりも、素直に彼のご厚意に甘えた方が喜ぶ。
まさか本当は慧くんを困らせようと思っていたなんて、彼は思いもしないだろう。
このことは私の心の中だけに留めておくことにした。

「是非、そうしてください。俺もたくさん飲む予定ですので」

その言葉が聞けて安心した。彼はどこか自分のことは後回しにして、人のことを優先してしまうところがある。
せっかくのお泊まりデートなのに、私だけがたくさん飲むのは申し訳ないし、味気ない。
飲めない人ならまだしも、飲めるのであれば二人で楽しみたい。その方が絶対に楽しい。

「やったー。二人で一緒にたくさん飲めるね」

そうなったらどのお酒を飲もうか、頭の中でたくさん浮かんでしまう。
飲みたいお酒が多すぎて、自分では選べない。

「俺も一緒に飲めて嬉しいです。こういう連休中だからこそ、たくさん飲めますね」

常習的にたくさん飲んでいたら身体にも悪いし、仕事にも支障をきたす。
それは人として宜しいことではない。だからこそ、節度を持って楽しめる時に楽しむのが一番だ。

「そうだね。こういう時だからこそ、日頃の疲れを癒すために、自分なりに合ったやり方で自分のことを労ってあげたいよね」

「そうですね。そのためにも楽しいお正月休みにしましょう」

慧くんとならそんなの簡単だ。楽しい時間になるのは間違いない。
そのためにも自分達が楽しい時間を少しでもより楽しめるように、欲しいものをできるだけ買って帰ろうと思う。

「うん。思いっきり楽しもう」

色々大量に買った。歩きで来たのでそんなに買うつもりじゃなかったのに、気がついたらたくさんカゴの中に入っていた。
でも後悔はしていない。二人で一緒に持って帰れば、それだけで楽しい時間に様変わりだ。

「京香さんに重いものは持たせないつもりだったんですけどね。すみません、持ってもらっちゃって…」

「全然気にしないで。それ以上持つと慧くんの負担が大きくなっちゃうし、それに二人で一緒に荷物を持った方がいいし」

気にするほどのことでもない。私だって普段、食料品の買い物の帰り道は、重い荷物を持って家まで帰っている。
でも慧くんはそんな自分を許せないのであろう。私はその気持ちだけで充分だ。
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