恋の微熱に溺れて…
「忙しいけど、上手くやってる。葉月は?」

もうあの男とはヤッたのだろうか。頭の中はそのことでいっぱいで。平然と話しているフリをしながら、ずっと葉月のことをそういう目で見ている。

「私は今、落ち着いてきて。ゆったりと仕事をしてるよ」

もし、俺の気持ちに気づいてしまったら、もうこんな風に話してくれないかもしれない。今のこの関係を壊したくない。
でも、葉月に意識してほしい気持ちもある。どうやって踏み込めばいいのだろうか。分からないまま、葉月との会話を続けた。

「そうか。それはよかったな」

頭に触れたいと思ったが、手を伸ばさなかった。
今触れたら、葉月を困らせるだけだと分かっていたから。嫌われるのを恐れた。

「うん。そうだね。久しぶりに如月くんと話せて嬉しかった」

ドキッとした。深い意味なんてないと知っているが、心は気持ちを抑えきれなかった。

「同期と話す機会ってなかなかないし、今も一緒に働いている同期も減ってきちゃったし」

この年齢になると、もう辞めてしまった人もいる。
その中でいる人達は数名で。こうして同期が今も一緒に働いていることが本当に嬉しい。
俺は同期のことなんてどうでもいい。今は葉月のことしか考えられない。葉月と喋れたから嬉しい。

「そうだな。嬉しいな」

自分の想いに制御をかけながら、言葉を選んで自分の想いを伝えた。

「そろそろ行かなきゃ…。それじゃ、またね。如月くん」

“またね”…か。また俺と話してくれるという言葉だけで嬉しかった。
葉月の言葉が脳内で何度も繰り返された。ずっと消えなかった。
俺は完全に油断していた。今まで誰も葉月を意識するライバルがいなかったから。
よりによって、どうしてアイツなんだ…?!そんなの勝ち目がないと嘆きながら、諦めきれない俺は、入り込む隙を見て、動き出すことを決意した。
< 45 / 130 >

この作品をシェア

pagetop