恋の微熱に溺れて…
「如月くん、何て…、「京香さん!」」

このタイミングで慧くんが間に入ってきた。
如月くんの言葉の続きを知ることはできなかったが、慧くんが来てくれたので、如月くんと喋り続ける必要がなさそうだ。

「慧くん、どうしたの?」

慧くんなら、用がなく話しかけてくれても構わないが、如月くんの手前、一応聞いてみた。

「京香さんに渡したい物があって。これです…」

慧くんが渡してくれたのは、缶コーヒーだった。
疲れた私を癒すために、休憩中に自販機まで行って、買ってきてくれたみたいだ。
彼氏に労わってもらえて嬉しい。残りの仕事も頑張れそうだ。

「慧くん、ありがとう。めちゃくちゃ嬉しい」

私達はすっかり如月くんの存在を忘れて、職場でイチャイチャしてしまった…。

「羽月って、葉月と仲良いんだな」

もうこの場に居ないものと思っていた。
タイミングを見計らって、喋り始めた如月くんに、二人で驚いてしまった。

「はい。実は…。この間のプロジェクトをきっかけに」

何一つ嘘をついているわけではないが、胸がドキドキしている。付き合っていることがバレないかどうか…。
バレたって別に構わないが、ここは今、職場だ。ここで気づかれるわけにはいかない。他の女性社員の目も気になるからである。

「そうなんだ。俺は葉月と同期」

何故か張り合う如月くん。どうして、張り合う必要があるの?

「そうなんですね。葉月さんと同期なの、羨ましいです」

慧くんは一応、如月くんが先輩なため、話を合わせている。
なんだか見ていて、居た堪れない気持ちになった。

「そんじゃ、俺、失礼するわ」

やっと如月くんが去ってくれた。そのことに心から安心した。

「京香さん、気をつけてください。あの人、京香さんのこと好きだと思います」

私にはそれが本当かどうかなんて分からない。
それでも、私の中に微かに違和感を覚えた。

「うん。なるべく気をつける」

この時感じた不穏な空気が、この先暫く付き纏うことになるとは、思ってもみなかった…。
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