恋の微熱に溺れて…
「ごめん。今、急いでるから」

このまま如月くんを無視して、慧くんの元へ向かおうと思っていた。
しかし、如月くんはそんなに甘くなかった。私の腕を掴んだ。
咄嗟のことに驚き、振り払おうとしたが、如月くんの方が男性なので力が強く、振り解けなかった。

「俺から逃げるな。俺はお前と話がしたい」

耳元で囁かれた。まずい。他の社員の視線が気になる。

「ごめん。本当に急いでるから、手を離して」

私が強く睨んで訴えた。睨んだのが効いたのか、手を離してくれた。

「…ごめん。手、捕まえて」

謝るくらいなら、大勢の前でこんなこと、しないでほしかった。
私は走ってその場を逃げた。周りの視線がとても痛かった。


           *


逃げたはいいものの、行く宛てもなく。
一先ず、誰も使っていない会議室に、鍵をかけて閉じこもった。
もう戻れない。誤解されて、冷やかされるに決まってる。
私が付き合っているのは慧くんだ。
でも、あの状況から察して、如月くんと付き合っているのではないかと、誤解した人が多いであろう。
如月くんも慧くんと同様に、女性社員からの人気が高い。
そのため、如月くんと誤解されるのは怖い。何て言われるか分からないし、嫌がらせを受けたくない。
だから、ずっと避けてきた。こうなる展開を望んでいなかったから。
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