恋の微熱に溺れて…
まだ皆に知られるのであれば、慧くんとがよかった。そうしたら、堂々と社内でも一緒に居られるのに。
心が痛かった。どうして、私がこんな思いをしなくてはならないのかと。
会議室で一人、静かに泣いた。目から涙が止まらず、零れ落ちた。
もう仕事どころではないほど、メンタルがズタボロだ。
このままサボるわけにはいかないが、戻ることもできない。
どうしたらいいのだろうかと、自問自答を繰り返していると、会議室のドアがノックされた。
もしかして、今すぐここを使うのかな?泣き腫らした顔を見られるわけにはいかない。
どうにかしなくてはと慌てていたら、声が聞こえてきた。

「京香さん。俺です。慧です。開けてください」

慧くんの声だ。一応、ハンカチで涙を拭いて、整えてから扉を開けた。

「よかった。京香さんを見つけられて…」

慧くんの息が上がっていた。どうやら、走り回って探してくれたみたいだ。

「慧くん、ありがとう。そして、ごめん…」

私がそう言った瞬間、慧くんが抱きしめてくれた。
同時に会議室のドアの鍵をかけてくれた。

「京香さんは悪くないです。俺が守れなくてごめんなさい」

慧くんは何も悪くない。こうやって、助けに来てくれたのだから。

「そんなことないよ。来てくれてありがとう」

慧くんがいなかったら、私は今、こうして心から頼れる人はいなかったと思う。
こうして助けに来てくれて、心から救われた。私にはあなたがいてくれてよかった。

「いえ。そう言ってくれて、逆にありがとうございます。京香さん、今日はもうこのまま帰りましょう」

こんなことで途中で抜け出して帰るなんて、他の人達には申し訳ないが、今は戻れほど心に余裕はなかった。
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