恋の微熱に溺れて…
私にとって大事な人は慧くんであって。如月くんではない。大事なものを見誤ってはいけない。
今、選ぶべき人は慧くんでなくてはならない。頭ではそう分かっていても、恋愛初心者の私には上手く気持ちを切り替えることができなかった。

「…大丈夫ですか?」

慧くんはきっと私が今、何を考えているのかお見通しなのであろう。
その上で心配して聞いてくれているのだと思う。
正直に今の自分の気持ちを伝えようか迷った。
でもやっぱり、ちゃんと伝えることにした。変に隠してまた拗れるのは嫌だから。

「慧くん。私がおかしいのかな?返事が出せないことを気にしてるの…」

慧くんは私と違って、恋愛経験が豊富そうだ。
こういったことにも長けていそうなので、迷わずに聞いてみた。

「そんなことないと思いますよ。気にしない人の方がおかしいと思います」

人の気持ちを蔑ろにする方が、人としておかしい。
好きな人もそういう人であって安心した。
そして同時に、私が気にしていることがおかしくないのだと分かり、心が軽くなった。

「そっか。そうだよね…」

だからといって、いつまでも気にしていても仕方がないのは確かで。
せっかく好きな人と一緒に居るのだから、好きな人のことだけを考えていればいい。
今は一旦、如月くんことを忘れて、思いっきり慧くんとの時間を楽しむことにした。


           *


あの日は慧くん家でまったり一緒に過ごした。
とても幸せな時間で。思い出すだけで顔がニヤけてしまいそうだ。

「何か嬉しいことでもあったんですか?」

隣の席の同僚に指摘された。
どうやら既に顔に出てしまっていたみたいだ。
慌てて取り繕った。何もなかったかのように。
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