恋の微熱に溺れて…
公衆の面前で何をイチャついているんだと思われているに違いない。自分もかつてはそちら側の目線だった。
でも恋をすると、周りが見えなくなるのは本当なのだと、この時初めて思い知った。

「そう言ってもらえてなによりです。…それじゃ、家へ帰りましょうか」

そっと手を差し出された。もう誰にバレても構わないと覚悟を決めて、慧くんの手を掴んだ。

「そうだね。帰ろっか」

慧くん家に着くまでの間、ずっと手を繋いでいた。電車の中でも…。
段々、人目が気にならなくなってきた。少しずつではあるが、こういったことに慣れてきたのかもしれない。
そう思うと、私も少し成長できたような気がして。またニヤけそうになった。


           *


慧くん家に着いてまず、夕飯の支度を始めた。
仕事してきて疲れて、お腹が空いている。
まずは色気よりも食い気を優先だ。

「京香さん、これも切っておいて下さい。お願いします」

私が包丁を持ち、食材を切る担当。
慧くんは味付け担当となっている。

「分かった。私に任せて」

普段から自炊はしているので、包丁で食材を切るのは苦ではない。寧ろ得意な方だ。

「はい、終わったよ。次は何をすればいい?」

「さすが京香さん。仕事が早いですね」

そう言う慧くんも手際が良い。
慧くんもどうやら、普段から自炊をしているみたいだ。
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