恋の微熱に溺れて…
そう思ったら、こんなに迷っている自分がバカらしく思えてきた。せっかく恋人との初旅行なんだから、思いっきり楽しまないと損だ。
一緒にお風呂に入るなんて、温泉じゃないとできない。散々見られているのだから今更だ。慧くんだって恥ずかしいに決まってる。
そもそも裸を見られることに抵抗がない人の方がいないと思う。それこそ見られて悦ぶ人なんて変な人だけだ。
そういった趣向はお互いにない。だからこそ、余計に恥ずかしい。
それでもこういった時間はとても大切で。慧くんの温もりを感じられることが心地良くて。幸せだ。
ドキドキしながらも、身に纏っている衣服を一枚ずつ脱いでいく。
全てを脱ぎ終えた私は、タオルを一枚手に取り、そのままお風呂へと向かった。

「…お待たせ」

扉を開け、中に入ると、慧くんは一瞬、目を見開いた。
そして、ニコッと微笑んでから、私を手招いた。

「京香さん、こっちへ来て下さい」

私は手招きに応えるために、ゆっくりと慧くんの元へと近づいた。

「まずは入る前に、シャワーで身体を洗い流してくるね」

恥ずかしさのあまり、逃げたわけじゃない。お風呂に入る前の最低限のマナーとして、取った行動に過ぎない。
わざわざ宣言する必要もないが、慧くんに誤解しないでほしかった。一緒に入るのが嫌で逃げたわけじゃないと…。

「分かりました。気長に待ってますね」
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