音無くんはあたしにだけ甘い

【第一話:告白ドッキリのはずなのに!?】


〇学校・教室(放課後)
教室内には愛衣と音無と悠馬の三人しかいない。
廊下から友人の胡桃と柊がワクワクした表情で覗き込む。
向かい合う愛衣と音無。
愛衣「好きです!付き合ってください!」
愛衣(よしっ、音無君、頼んだよ!今だ……!)
少し離れた場所にいた悠馬が弾かれたように愛衣たちに視線を向ける。
音無「うん」
愛衣「……そうだよね」
愛衣「って、ええっ!?」
驚く愛衣。
愛衣「ちょっ、まっ、お、音無くん?」
目を白黒させて大慌ての愛衣。
愛衣(待って、話が違うよ!?)
音無「俺、前から一宮さんのことが好きだった」
愛衣「へっ!?」
音無「俺と付き合ってください」
普段はいつも気だるげで覇気がなく大人しいのに、男らしくハッキリ淀みなく告白する音無。
初めての告白に顔を真っ赤にしてドキドキする愛衣。
愛衣(な、なんで?)
愛衣(事前に告白ドッキリって伝えてあったのに)
愛衣(なのに、どうしてあたしが逆に告白されてるの!?)


〇学校・教室(休み時間)
回想シーン
罰ゲームをかけてゲームをする愛衣と女友達の胡桃とその彼氏の柊。
二人にはめられて愛衣が負ける。
胡桃「はい、愛衣の負け~!罰ゲームはなににするっ?」
柊「告白ドッキリは?」
胡桃「それいいね!」
柊と胡桃が目を見合わせてニヤリと笑う。
愛衣「あたし、そういうのやだよ。ドッキリだとしても相手を傷付けることしたくない」
胡桃「それなら大丈夫!適役がいるじゃん!」
柊「そうそう。悠馬とか、さ」
幼稚園のときからの幼馴染の悠馬の姿が頭に浮かぶ。
愛衣と悠馬をくっつけようと画策するおせっかいな胡桃と柊。※愛衣は気付いていない
愛衣「やだよ~!そんなことしたら悠馬絶対怒るし」
柊「大丈夫だって!これをキッカケにうまくいくかもしれないだろ?」
胡桃「そうだよ。アンタたちが付き合ったらダブルデートできるし!」
頭の中で悠馬に告白するシーンを想像。
『ハァ?愛衣が俺を?ありえないだろ』と呆れられるシーンが頭に浮かぶ。
愛衣「やっぱり無理!絶対無理!」
柊「じゃ、今日の放課後悠馬に教室残るように言っとくから!胡桃、自販でなんか飲み物買ってこよーぜ」
胡桃「オッケー」
愛衣「ちょっ、待ってよ!」
呼び止める愛衣を無視してノリノリで教室を出て行く胡桃と柊。
盛大な溜息を吐く愛衣。
愛衣「もうっ。どうしたらいいの……」
愛衣(でも負けたのはあたしだしなぁ)
音無「なんか大変みたいだね」
頭を抱える愛衣に隣の席の音無が声をかける。
陽気でキラキラした派手ギャルな愛衣とは対照的に口数も少なく無気力な音無。
見た目も性格も正反対な二人。
陽気な愛衣があれこれ話しかける為、隣の席になってから二人は言葉を交わすようになった。
愛衣「やっぱさっきの全部聞こえてた?」
音無「だいたいね。で、ホントに早瀬くんに告白ドッキリするの?」
机に肘をつき身体を捻って尋ねる音無。
愛衣「顔面強っ!」
黒髪の少し長い前髪の間から切れ長の目が覗く。涼し気でクールな顔面。実は、めちゃくちゃイケメンな音無。
音無「なにが?」
愛衣「音無くん、もう少し前髪切って顔見せなよ~。音無くんはもっとイケメンアピールしていいと思うよ?」
音無「別にイケメンじゃないから」
冷静に返す音無にぺらぺらおしゃべりする愛衣。
愛衣「いや、イケメンでしょ。絶対モテるのにもったいないよ」
愛衣「背も高いじゃん?180くらいある?声も低くていい感じのイケボだし」
愛衣「あ、でも待って」
考えを巡らせる愛衣。
愛衣「やっぱりいいや。あたしだけが音無くんの良さ知ってるみたいでなんか特別感あるから」
にっこり笑顔の愛衣。顔には出さないもののドキッとする音無。
音無「無自覚なの、こわ」※ボソッと愛衣に気付かれないように呟く。
自分や友達とは真逆に、同い年なのに余裕があって落ち着いてる隠れイケメンの音無のことを以前から推していた愛衣。
愛衣「って、ごめん。話そらして」
愛衣「正直、罰ゲームで告るのはやだけど、悠馬なら許してくれると思うし」
音無「早瀬くんのこと信頼してるんだね」
愛衣「まあね~。悠馬とは幼馴染だから」
音無「告ってもし早瀬くんが本気になったらどうするの?」
愛衣「ないない!あたしたちそういう雰囲気になったことないもん」
音無「――だったら、告白の相手俺にしたら?」
愛衣「え?」
真っすぐ愛衣の目を見て、真剣な表情の音無。
音無「俺だったら全部事情分かってるし。一宮さんも気が楽でしょ?」
愛衣「え。けど、胡桃と柊も見てるよ?そんなのに巻き込んだら音無くんに悪いよ!」
愛衣(あの二人絶対ニヤニヤしながらみてるだろうし)
音無「でも、誰かを傷付けるの嫌なんでしょ?」
愛衣「それはそうだけど……」
音無「それとも、俺じゃ役不足?」
愛衣「とんでもないっ!って、本当にいいの?音無くん、無理してない?」
心配する愛衣。
音無「してないよ。むしろ、俺にとってもこれはいい機会だから」
愛衣(うん?いい機会ってなんだ?)
音無が意味ありげに微笑む。
愛衣(ま、いっか。音無くんがやるって言ってくれてるわけだし)
愛衣「分かった…!じゃあ、早速打ち合わせしよっ!」
音無「うん」
顔を近付けてコソコソ話す愛衣と音無を遠くから気にする悠馬。

〇学校・教室(放課後)
教室内には、愛衣、音無、悠馬の三人だけ。
廊下から胡桃と柊が見守りながらコソコソ話す。
柊「おい、なんで音無帰んないんだ?」
胡桃「わかんない!」
悠馬が愛衣の席にやってくる。
悠馬「放課後教室に残れって柊たちに言われたんだけど」
愛衣「ああ、うん。そのことなんだけどね、ちょっと音無くんに話があるから出てもらってもいい?」
愛衣(悠馬がいるとなんとなくやりずらい)
悠馬「なんだよ、それ。俺がいるとできない話でもあんの?」
ムッとした様子の悠馬。
愛衣「お願いだから、ちょっとだけ出て!すぐ終わるから。ねっ?」
悠馬「嫌だ」
愛衣(も~悠馬ってば頑固なんだから!)
愛衣(仕方ない……!どうせ告白ドッキリだし悠馬がいてもいいか!)
愛衣(むしろ、私が音無くんに告白するのを見たら悠馬ってばどんな顔するんだろっ?)
愛衣が隣の席の音無に声を掛ける。
愛衣「音無くん、大事な話があるの」
音無が席から立ち上がって二人は向かい合う。
背の高い音無を見上げてドキッとする愛衣。
愛衣(ていうか、ドッキリとはいえ告白するのは初めてだし緊張する!)
愛衣(しかも相手は推しの音無くんだし)
愛衣「あのね、音無くん」
音無「なに?」
目が合ってごくりとつばを飲み込む。
愛衣(さあ音無くん、打ち合わせ通り頼むよ!)
〇教室での打ち合わせの回想。
「好きです!付き合ってください!」「ごめん。付き合えない」サラっと断って教室を出て行く音無。
それを見て、胡桃と柊が「残念でした~!」って爆笑で終わりになる。
〇回想終わり。
愛衣「好きです!付き合ってください!」
驚いたように愛衣に視線を向ける悠馬。
愛衣(さあ、音無くん!一思いに断って!!)
音無「うん」
愛衣「……そうだよね」
愛衣「って、ええっ!?」
ポカンッとした表情の愛衣。
愛衣「ちょっ、まっ、お、音無くん?」
音無「俺、前から一宮さんのことが好きだったんだ」
愛衣「へっ!?」
音無「俺と付き合ってください」
男らしく淀みなく告白する音無にトクンッと心臓が鳴る愛衣。
愛衣「えっ、えっと……」
目を白黒させる愛衣。見た目は派手でギャルだけど、初心な愛衣は恋愛経験ゼロ。
男の子から告白されたのも初めて。
それを見ていた胡桃と柊が教室に飛び込んでくる。
胡桃「ちょっ、音無くんってばマジ!?」
柊「いや、どう考えても違うだろ!俺らが逆ドッキリされたんじゃん!愛衣、音無のことまで巻き込むなよ~!」
愛衣「ちっ、ちがっ!いや、違くはないか?」
愛衣「あれっ、ちょっ、誰が仕掛け人?」
愛衣「なにこれ!」
愛衣(もうわけわかんない!!)
混乱する愛衣の隣にやってくる悠馬。
悠馬「ドッキリってなんだよ」
苛立ったように愛衣に尋ねる悠馬。
音無「一宮さんが告白ドッキリするって言ってたから、俺にしなよって言ったんだ」
悠馬「ふぅん。で、愛衣にお前が逆ドッキリ仕掛けたってこと?くだらないことすんなよ」
怒った顔の悠馬にも音無は涼しい顔を崩さない。
音無「ドッキリじゃないよ」
悠馬に真っすぐ視線を向ける音無。
胡桃「ま、マジ!?音無くん、本気で愛衣が好きなの!?」
柊「じゃあ、三角関係ってことか!?とんでもない展開になったな!」
胡桃と柊の二人はギャーギャー大盛り上がり。
愛衣(待って。三角関係ってなんのこと?)
不思議そうな顔をして首を傾げる愛衣。
音無「俺、本当に一宮さんのことが好きだから」
悠馬「それ、マジで言ってんの?」
音無「うん」
悠馬「お前、愛衣のどこが好きなんだよ」
音無「こんなところで言わないよ。言うなら二人っきりのときに一宮さんにだけ伝える」
悠馬と音無は愛衣を巡ってバチバチの雰囲気に。
それをオロオロしながら見つめる愛衣。
愛衣(なにこれ)
愛衣(告白ドッキリが、どうしてこんなことに!?)

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