うみのはじまりは花火
「何も名簿で叩かなくてもいいのにね」

HRが終わり、私は多恵ちゃんに愚痴をこぼした。

「小倉せんせは、ルーズなこと嫌いやからなぁ。それにしても、うみが遅刻すんの珍しいやん。なんかあった?」

多恵ちゃんはそう言って自身の金がかった髪をくるくると弄ぶ。

「あー、昨日遅くまで起きてたから」

「ふーん、何してたん?」

「ちょっと考え事?」

自分のことなのに疑問系で答えてしまう。

すると、多恵ちゃんは、くりくりとした目をまん丸にしてこちらをみた。

「え? うみが?」

まるで私には悩みなんてないと言う言い草だ。

「なんそれ? 失礼じゃい」

私がギュッと抱きつくと、多恵ちゃんは「ごめんな〜!」と、まるでスパンコールが弾けるように笑った。

 「うみはいつもニコニコしてて悩みなんてなさそうやから」

「私だって悩みくらいあるよ」

「どんな悩みなん? お姉さんに話してみ?」

「えー、多恵ちゃんに? なんか嫌だな」

「こらっ」


多恵ちゃんは地元の幼馴染だ。

実は、家がご近所さんで、小中高と学校が一緒だったりする。

しかし、同じクラスになったのは高二になった今年がはじめてで、四月には2人して「同じクラスになった……!」と感動をしたものだ。

「お、写真かわってる」

「ん、昨日卓也とプリ撮りにいってん。可愛いやろ」

多恵ちゃんは、握りしめていたスマホのカバーを見せた。

卓也は多恵ちゃんのボーイフレンドだ。

彼も地元の幼馴染ズの一人。

私の中の卓也のイメージは、虫取りが好きで、いつも網とカゴを持って走り回っているようなやつだったけれど、昨年の文化祭後、多恵ちゃんと付き合い始めて変わったらしい。  

なんでも多恵ちゃんプロデュースで垢抜けたのだとか。

しゃんとした格好したら他人様からは男前に見えるのか、元の卓也を知らない後輩からはかっこいいと言われているのを最近知った。

「うち、卓也と付き合い始めてん」と多恵ちゃんの口から聞いた時は驚いたけれど、なんだかんだでお似合いの二人だ。

「よく撮れてんね」

「うみも今度一緒にいこうや。モール」

私は返事の代わりにニッと笑った。

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