うみのはじまりは花火
黒地に赤い金魚が泳ぐ浴衣を身にまとい、髪は結ってひとまとめ。

こう言う時、潮風で傷んだ私の髪は、ヘアセットがしやすいから便利だ。

男の子と夏祭りに行くなんて、これが人生で最後かもしれないなんて思ったから、気合いを入れて浴衣を着てしまったけれど、よく考えたら、あまり関わりのないクラスメイト相手にする格好じゃなかったなと早速後悔している。

小倉くん、若干引き気味で今日のことを引き受けてくれたわけだし……。

わんちゃん私の誘い方が断りづらくて本当は行きたくないのに無理やり約束こじつけちゃったのかもしれない。

本当に申し訳なくなった。

「加納さーん!」

すると、遠くから小倉くんが走ってこちらにやってくる。

いつもの制服ではなく、Tシャツに涼しげなジャケットを羽織り、ジーパン姿で、なんだかプライベートって感じが新鮮だった。

「お待たせして申し訳ないです。女性を待たせるなんて」

「女性って」

私はクスッと笑った。

私の周りの男子は私のことをそんなふうには言わない。

「あ、浴衣、いいですね。夏って感じがして」

小倉くんはヘラっと笑った。

不覚にも結構嬉しかった。

「花火始まるまで、出店見てまわりましょうか」

暗がりに祭の赤オレンジの灯りがぽっと点っている。

りんご飴にわたあめ、焼きそば。

ヨーヨー釣りに射的にお面。

次々に飛び込んでくる情報に目移りしてしまう。

「何か食べますか?」

「焼きそば!」

私は迷わずそう答えた。


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