うみのはじまりは花火
屋台でいくつか食べ物を買った私たちは、神社の石段に腰を下ろして戦利品を頬張った。

「ここから花火よく見えるんですよ。穴場です」

わたあめを手でちぎって上品に食べながら小倉くんはそう言った。

「へぇ」

確かにここは穴場だった。

祭の喧騒からは少し離れた場所で、何より腰を落ち着けて花火を鑑賞できそうだ。

「今日ずっと思ってたんだけどさ」

「はい?」

小倉くんは無邪気な瞳をこちらに向ける。

「小倉くんって結構女の子慣れしてるよね」

「そ、そんなことないですよ」

「なんかエスコートがスマートだし、穴場とか教えてくれるし」

「それは、」

小倉くんは押し黙ってしまった。

「小倉くん?」

「正直なこと言っても、引きませんか?」

「え、引くも何も、私の方が小倉くんに引かれてるでしょ。だって、たいして話したこともないのにいきなり夏祭りに誘って、当日はこんな浮かれた格好で来ちゃうし」

多恵ちゃんの提案とはいえ、自分で自分の厚かましさにびっくりだ。

「そんなことないですよ。加納さんみたいに素敵な人が僕を誘うなんて、罰ゲームか何かでしょうし」

「それは違うよ!」

小倉くんがそんな風に思っていたなんて、申し訳なさすぎる。

今日は元はと言えば、単なる私のエゴから始まったと言うのに。

「違うんですか?……僕は別にそれでも構わないんですよ。加納さんに誘ってもらえて嬉しかったから。今日、少しでも楽しんで欲しいなと思って頑張っちゃいました。兄にも色々聞いたりして。でもやりすぎちゃいましたかね」

「小倉くん、お兄さんがいるんだ」

小倉くんは小さく頷いた。

というか、小倉くんって……

透き通るように色白な肌。

メガネの下の顔は、あどけない顔立ちだけれど彫りがしっかりしていて__もしかして超絶美人さん?

「加納さん?」

私は誤魔化すように言った。

「そういえば、先生と同じ苗字なんだね」

「あれ、僕の兄なんです」

「え?!」

小倉くんは照れたように微笑んだ。

「隠していたわけではなかったんですけどね」

ドーン。

夜空に大輪の花が咲く。

「わー、綺麗ですね」

横で楽しそうに夜空を見上げる小倉くん。

顔だけは好きな先生に、穏やかな笑みが加わったらそれはもう。

「加納さん?」

私の中で、何かが弾ける音がした。
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